4勝146敗、新薬開発が険しいアルツハイマー病 国際治験の抱える課題とは
認知症と生きる
一方で、病気を受け入れ、共存する道を探る動きもある。東京都目黒区の「Dカフェ・ラミヨ」には、アルツハイマー病患者やその家族らが集まる。
運営するNPO法人の代表理事を務める竹内弘道さん(75)の自宅2階を改装し、カフェスタイルの集まりを月2回ほど開いている。
ここはデイサービスなどとは異なり、みんなで体操をしたり歌をうたったりするイベントは行わない。運営側も参加者側も1人300円を払い、後は思い思いに過ごす。
こうした集まりは一般に「認知症カフェ」と呼ばれ、厚生労働省が2015年に策定した「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)で普及が促進された。現在は1200以上の自治体で設置されており、エーザイも文京区と定期的に共催している。
主な目的は、孤独に陥りやすい介護者が互いに胸のうちを話し合い、心理的な負担を軽減させることだ。
杉山則子さん(64)は「ラミヨ」の運営に約4年携わっているが、現在も89歳の母親と暮らす現役の介護者でもある。
「こうした集まりに参加すると大きな支えを感じる」と杉山さんは話す。以前、アルツハイマー病の父親を介護していた時、その豹変した姿に精神的なショックを受け、一時は自殺も考えた。
介護者どうしが悩みを打ち明けることで「私だけが辛いわけじゃないんだなと分かり、いくぶん気持ちが和らいだ」という。
新薬への希望が灯っては消える──。このことは、多額の研究開発費を投じる製薬企業の体力を奪うことに加え、患者やその家族の心理を揺さぶる。
代表理事の竹内さんは「希望と失望をずっと繰り返してきた。それこそが心の負担にもなる」と話す。2011年に他界した竹内さんの母親もまた、アルツハイマー病を患い、亡くなるまでの10年間は2人で暮らしていた。
介護生活を通して「認知症は怖いものではない」と思うようになった竹内さん。「医療でもって病気を治すという考え方ではなく、現状を受け入れて共存していく道を探ることも必要ではないか」。
(梅川崇 編集:田巻一彦)


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