最新記事

認知症

4勝146敗、新薬開発が険しいアルツハイマー病 国際治験の抱える課題とは

2019年5月13日(月)14時33分

認知症と生きる

一方で、病気を受け入れ、共存する道を探る動きもある。東京都目黒区の「Dカフェ・ラミヨ」には、アルツハイマー病患者やその家族らが集まる。

運営するNPO法人の代表理事を務める竹内弘道さん(75)の自宅2階を改装し、カフェスタイルの集まりを月2回ほど開いている。

ここはデイサービスなどとは異なり、みんなで体操をしたり歌をうたったりするイベントは行わない。運営側も参加者側も1人300円を払い、後は思い思いに過ごす。

こうした集まりは一般に「認知症カフェ」と呼ばれ、厚生労働省が2015年に策定した「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)で普及が促進された。現在は1200以上の自治体で設置されており、エーザイも文京区と定期的に共催している。

主な目的は、孤独に陥りやすい介護者が互いに胸のうちを話し合い、心理的な負担を軽減させることだ。

杉山則子さん(64)は「ラミヨ」の運営に約4年携わっているが、現在も89歳の母親と暮らす現役の介護者でもある。

「こうした集まりに参加すると大きな支えを感じる」と杉山さんは話す。以前、アルツハイマー病の父親を介護していた時、その豹変した姿に精神的なショックを受け、一時は自殺も考えた。

介護者どうしが悩みを打ち明けることで「私だけが辛いわけじゃないんだなと分かり、いくぶん気持ちが和らいだ」という。

新薬への希望が灯っては消える──。このことは、多額の研究開発費を投じる製薬企業の体力を奪うことに加え、患者やその家族の心理を揺さぶる。

代表理事の竹内さんは「希望と失望をずっと繰り返してきた。それこそが心の負担にもなる」と話す。2011年に他界した竹内さんの母親もまた、アルツハイマー病を患い、亡くなるまでの10年間は2人で暮らしていた。

介護生活を通して「認知症は怖いものではない」と思うようになった竹内さん。「医療でもって病気を治すという考え方ではなく、現状を受け入れて共存していく道を探ることも必要ではないか」。

(梅川崇 編集:田巻一彦)

[東京 13日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

AI投資ブームは「危険な」段階、ブリッジウォーター

ビジネス

韓国の高麗亜鉛、米で74億ドルの製錬所建設へ トラ

ワールド

トランプ氏がBBC提訴、議会襲撃前の演説編集巡り巨

ワールド

政府・日銀、景気認識に「齟齬はない」=片山財務相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中