最新記事

麻薬組織

世界の闇社会を牛耳る、頭脳派麻薬王を追え!

Lifestyles of the Rich and Malevolent

2019年5月8日(水)18時00分
メアリー・ケイ・シリング

――ルルーの名はあまり知られていないが。

アメリカ人は麻薬王と言えば、いかにも凶悪で派手な男を連想する。ダイヤをちりばめた銃を持ち、美女をはべらせ、メキシコの豪邸に住んでいるといったイメージだ。ドナルド・トランプ米大統領もそんな固定観念を持ち、国境の壁でそういう連中を閉め出せると思い込んでいる。

だが麻薬取引は以前とは様変わりした。武器密輸と結び付き、資金は中国やレバノンに流れる。レバノンのシンジケートがコロンビアのカルテルと手を組むといった状況だ。それを先取りしたのがルルーで、今のアメリカのオピオイド禍もそういう状況から生まれた。

――DEAは6年前にリベリアでルルーを逮捕し、司法取引で捜査に協力させた。

そう。DEAは彼の手下を検挙するために、彼に関する情報を全て極秘扱いにした。彼の存在や活動も、彼が牛耳るグローバルな犯罪帝国についても。

ルルーが雇った殺し屋は世界中どこにでも出没する。捜査当局はそのネットワークの全容をまだつかんでいない。実際、彼の傭兵の1人が私と話したいとメールを送ってきたばかりだ。

magw190508-drug02.jpg

DEAに逮捕された麻薬王ルルー(移送中の機内で) Derek Maltz Personal Collection

――それは本当か。ルルーは7件の謀殺を認め、恐怖支配で組織を統率してきた男だ。あなたの命が危ないのでは?

それはないと思う。むしろ情報提供者のことが心配だ。ルルーは復讐心が強い。

捜査官は彼がどこかに巨額の資金を隠しているとみている。香港にマンションを持っていて、中国の銀行にも口座があった。

香港当局は大量の金塊と爆薬の原料を押収したが、それが全てという保証はない。ルルーは一般の刑務所に移送されれば、今よりも外部と連絡が取りやすくなる。そのとき彼が何を指示するか予測不可能だ。

――彼には良心が欠けているようだ。北朝鮮から覚醒剤のメタンフェタミンを買い、北朝鮮は収益を核兵器開発に充てていた。

彼が北朝鮮から入手したメタンフェタミンは純度99.7%。覆面捜査官が録音したテープで、彼は北朝鮮の製造施設は1カ月に何トンもの高純度メタンフェタミンを生産できると豪語していた。私の計算では、末端価格で10億ドルにもなる量だ。

――あなたはDEAの捜査官、特に特殊部隊の第960班の活躍を詳述し、彼らに対する世論のイメージを覆した。

ルルーについて取材を始めるまで私もこの班のことをよく知らなかった。高度なスキルを持つチームで、グローバルな地下経済に網を張っている。

裏の世界では、多くの悪人が多種多様な悪事を働き、カネとモノを活発に動かしている。一般市民は地下経済の存在に気付かないだけだ。とんでもなく恐ろしい事態が起きるまで......。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中