最新記事

資本主義

さよならGDP 「ニューエコノミクス」は地球を救うか

2019年5月19日(日)20時24分

今や、科学的にも裏付けられつつある。飽くなき経済成長の追求は地球上の生命を支える基盤を蝕んでおり、このままの流れが続けば、貧富にかかわらず、どの国も苦い結果を避けることはできそうにない。写真は4月、ロンドンでデモ行進し、気候変動対策を訴える「エクスティンクション・レベリオン」の参加者(2019年 ロイター/Toby Melville)

飽くなき経済成長の追求は地球上の生命を支える基盤を蝕んでおり、このままの流れが続けば、貧富にかかわらず、どの国も苦い結果を避けることはできそうにない──。このことは今や、科学的にも裏付けられつつある。

では、世界はどうすれば針路を変えられるのだろうか。

まだ非主流派ではあるものの、世界中に張り巡らされた緊密なネットワークに参加するエコノミスト、草の根の活動家、企業経営者、政治家、そして一部の投資家たちが、その答えを描き出そうとしている。

どのような構想か。米国とモザンビークのように全く異なる経済においても共通の尺度とされる国内総生産(GDP)よりも、もっと総合的な進歩概念をもとに、国家、地域コミュニティ、自然のあいだに新たな関係を打ち立てる、というものだ。

「環境の崩壊と気候変動という双子の課題に対処できるような経済体制を目指して私たちがしっかり進んでいくために必要なことをやっている国家は、地球上には存在しない」と語るのは、ロンドンの公共政策研究所の准研究員であり、「This Is A Crisis(これは危機である)」と題する新たな環境分析レポートの主執筆者を務めたローリー・レイバーンラングトン氏。

「しかし、規模を拡大できればという条件付きだが、そうした問題に対応できるのではないかと思われるアイデアや小規模なプロジェクトはたくさん進められている」と彼は言う。

勢いを増している試みの1つが、GDP以外の基準で進歩を図ろうというものだ。GDPは本質的に、ある国の財・サービスの市場価値を測定している。

現在30歳のレイバーンラングトン氏をはじめとする「ニューエコノミクス」の旗手たちは、より広くは、迫り来るシステミックな環境激変への対応を組織化するに当たって、国家が中心的な役割を演じなければいけないことをそろそろ認めるべきだ、と主張している。

だが彼らが思い描いているのは、産業国有化や企業幹部の報酬上限設定といった1970年代の左派勢力の政策への先祖返りではない。むしろ、社会的な不平等に取り組みつつ地球全体としての「健康」を回復するような新たな参加型の経済活動を地域コミュニティが生み出せるよう、各国政府が支援していくべきだと考えている。

そうした活動の候補をいくつか挙げるならば、地域単位で運営されるクリーンエネルギープロジェクト、労働者所有の協同組合、さまざまな種類の進歩的なビジネス、さらには、適切な政策環境のもとで飛躍的に伸びる可能性のある再生型農業や生態系回復事業といったところだ。

GDPに代わるバランスの良い指標の考案をめざす初期の試みである「真の進歩指標(Genuine Progress Indicator)」などの例を踏まえて、公正さや、健康、持続可能性における進歩を測定する新たな経済指標を民主的な協議を通じて策定することも可能だろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ軍撤退なければ、ドンバス地方を武力で完全

ビジネス

アングル:長期金利2.0%が視野、ターミナルレート

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ADBと世銀、新協調融資モデルで太平洋諸島プロジェ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中