最新記事

テロ

イスラム過激派、警察と銃撃戦で2人死亡 厳戒態勢の断食月迎えたインドネシア

2019年5月8日(水)06時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

警察へのテロを計画していたテロ組織メンバーの潜伏していたアジト (c) KOMPASTV / YouTube

<預言者ムハンマドが神の啓示を受けたという神聖な月に合わせて、イスラム過激派によるテロの脅威が高まっている>

世界最大のイスラム教徒人口を擁するインドネシアは5月6日から約1カ月間にわたるイスラム教の主要行事の一つ「ラマダン(断食月)」が始まり、イスラム教徒は日中の飲食を断ち、敬虔な祈りの中で日常生活を送っている。

しかしインドネシアでここ数年断食の前後にイスラム教テロ組織による爆弾テロが続発しており、警察当局は全土で約10万人態勢の厳戒態勢をとって、テロを警戒している。

こうしたなか、断食入り直前の5月4〜5日にかけて警察へのテロを計画していたテロ組織メンバーの隠れ場とみられる商店を、警察の対テロ部隊が急襲。銃撃戦となり、死者がでる事件が起きた。

5月5日未明にかけて、首都ジャカルタの東部に位置する西ジャワ州ブカシ市ジャティアシにある住宅街の商店を国家警察対テロ特殊部隊(デンスス88)が急襲し、潜んでいた男らと銃撃戦となった。

アンタラ通信などによると、この銃撃戦で2人が死亡、3人が逮捕された。銃撃戦の過程で爆弾が爆発したとの情報も出ている。

警察側は死者の名前は発表しておらず、逮捕者の氏名もイニシャルと年齢しか公表していない。逮捕したSL(34)、AN(20)、MC(28)の3人は、中東のテロ組織「イスラム国」に共鳴するインドネシアのテロ組織「ジャマア・アンシャルット・ダウラ(JID)」と関係があると発表した。

特にSLはJIDのスマトラ島南部ランプン地区のメンバーで、4月17日に投票が行われた大統領選挙、国会議員選挙(選挙管理委員会による正式な集計作業が続いている)に関連して、警察官ないし警察施設に対するテロを計画していたという。

選挙期間中、断食中も厳戒態勢

ところが選挙期間中、インドネシア治安当局は治安維持のために全国で5万9300人を投入して厳戒態勢でテロ封じ込みに全力を挙げた。このためSLはランプンでのテロを断念してジャワ島に逃走、ブカシ市内の商店に潜伏していたという。ともに逮捕されたANとMCはSLの逃走と潜伏を支援した容疑が持たれているという。警察によると、この潜伏先の商店は数カ月前に所有者が代わり、最近は複数の男女が出入りしていたのが周囲の住民に目撃されているが、近所付き合いはほとんどなかったという。

インドネシア国家警察は5月6日から始まった断食の期間中、全土で約10万人の治安部隊を展開させてテロへの万全の態勢をとっている。これは、過去数年、インドネシアでは断食期間の前後にテロが発生していたからだ。2017年5月24日にはジャカルタ東部のカンプン・ムラユにあるバス停付近で自爆テロが発生しイスラム教徒による行事の警備にあたっていた警察官3人が犠牲となっている。さらに2018年5月13日には東ジャワ州の州都スラバヤにある3カ所のキリスト教会で連続自爆テロが発生、13人が死亡、45人が負傷した。翌日の5月14日には同じスラバヤにある市警察本部でも自爆テロが起きた。

このように2年続けて5月に自爆テロが起きていることから治安当局は5月から6月にかけて特に厳戒態勢で臨んでいる。ジャカルタ市内では普段はソフト警備だった宗教施設や警察関連施設、政府要人私邸などに防弾チョッキとヘルメットで小銃を所持した治安要員が配置されている。またキリスト教会や警察施設への出入りには通常以上の厳しい荷物検査が実施されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マスク氏とフアン氏、米サウジ投資フォーラムでAI討

ビジネス

米の株式併合件数、25年に過去最高を更新

ワールド

EU、重要鉱物の備蓄を計画 米中緊張巡り =FT

ワールド

ロシアの無人機がハルキウ攻撃、32人負傷 ウクライ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中