最新記事

ウクライナ大統領選

ウクライナの喜劇俳優とプーチン、笑うのはどっちだ?

Who’s Laughing Now: Zelensky or Putin?

2019年4月23日(火)18時20分
ジャスティン・リンチ

アメリカは、ウクライナ東部、クリミアとケルチ海峡でのロシア政府の行動を受けて、ロシアの複数の個人に制裁を科した。だがロシアに対するさらなる罰を求めてきたウクライナと東欧諸国の政治家たちは、トランプ政権が1月、プーチンに近いロシア新興財閥のオレグ・デリパスカの所有する企業に対する制裁を解除したことに驚いた。もっとも、米国務省の報道官はフォーリン・ポリシー誌に対して、ロシアがウクライナ東部での行動を改めるまで、アメリカによる制裁は継続させるとしている。

こうしたこと全てが、ゼレンスキーにとって重大な地政学的危機となる。彼の唯一の政治経験はテレビ番組で演じた大統領役だ――それもアメリカのドラマ『ザ・ホワイトハウス』に登場するジョサイア・バートレットのような聡明で強い大統領ではなく、笑いを取ることが狙いの大統領だった。

ゼレンスキーの勝利には、イタリアの反体制派運動「五つ星運動」やアメリカのドナルド・トランプのように、国内のエリート層に対する怒りが生んだポピュリスト的要素があると指摘する声も一部にある。ゼレンスキーは政治について語った際に、ウクライナに根付いた腐敗のネットワークと闘い、ロシアとの紛争を解決することを約束した。

新世代の指導者を求めた有権者

ゼレンスキーはまた、ウクライナの守旧派の痛いところを突いている。ウクライナでも指折りの富豪であるポロシェンコ政権の下、ウクライナは欧州で一番汚職がひどい国の一つと、トランスペアレンシー・インターナショナルは言う。そしてポロシェンコは、必要な改革をなかなか実行しなかった。ポロシェンコの不支持率は55~65%にのぼると、米ウィルソン・センターの上級顧問、ミハイル・ミナコフは言う。「ある調査では、ポロシェンコが連想させる汚職や手つかずの改革、分断を煽る国家イデオロギーなどには73%の有権者がノーと言っている」

ゼレンスキーの最大の強みは、ほとんど知らない者がいないほどの知名度と巧みなショーマンシップだ。彼は、決選投票に向けた大統領討論会の会場を、欧州サッカーの興奮冷めやらぬキエフのオリンピック・スタジアムで行うことを主張した。討論会の間、ゼレンスキーがウクライナの経済不振を批判すると、彼の支持者たちが大声で賛意を表した。ゼレンスキーは、ウクライナ軍の兵士を讃えるために跪きさえした。

ゼレンスキーの勝利は何より、ウクライナ人が新しい世代の指導者を求めていることを表している。「ゼレンスキー陣営は、SNSなどの利用で創造性を発揮し、すべての世代、所得階層、宗教の心に訴えた」と、ミナコフは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ユーロ圏GDP、異常気象で5%減の可能性 ECB幹

ワールド

中国、雇用下支えへ支援策 米との貿易摩擦長期化で対

ビジネス

米ドル、第1・四半期の世界準備通貨の構成比が低下 

ワールド

スコットランド警察、トランプ米大統領訪問に向け事前
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 5
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 6
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 7
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 8
    【クイズ】 現存する「世界最古の教育機関」はどれ?
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中