最新記事

テロ

連続爆発テロ:スリランカはなぜ狙われたのか

Sri Lanka: History of War, Now Bombings Interrupt Peace

2019年4月22日(月)17時05分
トム・オコナー

爆発の翌日、首都コロンボの聖アンソニー廟の前に集まった住民たち(4月22日) Athit Perawongmetha- REUTERS

<民族と宗教が複雑に絡み合うスリランカは10年前まで内戦を戦っていた>

4月21日日曜日の午前、スリランカ各地の教会やホテルで自爆テロとみられる爆発事件が連続して発生し、200人以上が死亡した。インド洋に浮かぶこの島国には、民族間の対立が宗教の違いによりさらに悪化し、流血の事態が続いた悲しい歴史がある。

21日はキリスト教では1年で最も神聖なイースター(復活祭)の日だったことから、今回の事件はキリスト教徒コミュニティを狙ったものとみられている。複数の教会で、信者たちが復活祭の礼拝に参加している最中に爆発が起きているのだ。

スリランカ国民の過半数は仏教徒だが、少数派ながらヒンドゥー教やイスラム教、キリスト教(ほとんどがカトリック)の信者も暮らしている。CIAワールドファクトブックによれば、全人口に占める割合は12年時点の推計値でヒンドゥー教徒が12.6%、イスラム教徒が9.7%、キリスト教徒が7.4%だ。

ちなみに仏教徒のほとんどは多数派のシンハラ人が占めており、タミル人は主にヒンドゥー教徒だが、熱心なキリスト教徒もいる。イスラム教徒はタミル語を話すがアラブ系とされる。何世紀も前にスリランカに定住したアラブ人貿易商の末裔たちだ。

迫害を受けたイスラム教徒

1983~2009年の長きにわたって続いた内戦では10万人もの死者が出たが、その背景にはこれらの民族集団の間で起きた利害の対立と武力紛争があった。軸となったのはシンハラ人とタミル人の対立だったが、戦いは主にシンハラ人を主体とした政府とタミル・イーラム解放のトラ(LTTE)との間で繰り広げられた。

一方でLTTEは、イスラム教徒も殺戮の対象にした。主にLTTEによるとされる襲撃が相次ぎ、イスラム教徒は故郷や家を追われた。そして内戦終結後も、イスラム教徒は差別の対象であり続けた。昨年、東部の都市アンパラで起きたシンハラ人主体の暴動でも、標的となったのはイスラム教徒で少なくとも2人が死亡した。

LTTEは2009年、マヒンダ・ラジャパクサ大統領(当時)の下で行われた政府軍の猛攻の中で降伏。ちなみにスリランカでは昨年秋、マイトリパラ・シリセナ大統領がラジャパクサを首相に指名したものの、現職のラニク・ウィクラマシンハ首相が解任に応じず、結局はラジャパクサが辞任するという政治混乱が起きている。

さて内戦終結以降、スリランカではシンハラ人仏教徒の間で一種のナショナリズムが広がり、他の宗教、特にイスラム教への弾圧を求める団体が台頭。同時に、イスラム教徒の中にもテロ組織ISIS(自称イスラム国)に参加した者がいると言われている。ISISは世界各地で教会などを狙った襲撃事件を起こし、多数の犠牲者を出している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中