最新記事

アメリカ政治

ロシア疑惑報道はフェイクにあらず

Journalists Got Mueller Report Right

2019年4月5日(金)18時00分
セス・エーブラムソン(ニューハンプシャー大学助教)

ロシア疑惑の捜査報告書の概要が公表されて、トランプは潔白を主張した Jonathan Ernst-REUTERS

<メディアは「黒」と決め付けたと批判されるが、捜査報告書は正確な報道だったと証明している>

16年の米大統領選でロシアがドナルド・トランプ現大統領の陣営に肩入れしたという「ロシア疑惑」をめぐり、ロバート・ムラー特別検察官は3月22日、捜査報告書を提出。24日にはウィリアム・バー司法長官が、それを4ページに要約したものを公表した。

予想どおりと言うべきか、米報道界では責任のなすり合いが始まっている。メディア企業に属するジャーナリストもフリーランスも、この問題について何が正しい理解なのか分からないまま、非難合戦を始めている。

その中で特に注目を集めている2つの激しい争いがある。

1つは、報道機関と共和党を支持する有識者の争い。リベラル寄りの各メディアは、早い段階からロシア疑惑の捜査をめぐる報道に重点を置き過ぎていたという批判を受けて、自己弁護に奔走している。

もう1つは報道機関と市民ジャーナリストの争い。報道機関は、市民ジャーナリストが疑惑について公にされた証拠を読み誤り、捜査報告書はトランプに厳しい内容になると強調し過ぎたと非難している。

メディア界の内輪もめが続くなか、トランプは多くのカメラの前で熱弁を振るった。ムラーが提出した捜査報告書によって、自らの「完全な潔白が証明された」と主張した。

あえて言おう。私は全員が間違っていると考えている。

最も間違いが明白なのはトランプだ。彼はこの2年間にわたり、自分が司法妨害をした証拠や、ロシアと直接的・間接的に協調したという小さな証拠さえもムラーは見つけられないだろうと言い続けてきた。

この主張は全くの誤りだった。ムラーは司法妨害について十分な証拠を見つけた。だが大統領が弾劾にかけられるべき違反があったかどうかは議会が判断すべきだと考え、公になっている証拠については評価しなかった。

共謀について、ムラーは十分な証拠はなかったとしか明らかにしていない。「合理的な疑いの余地なく」証拠となる水準にどれだけ足りなかったかは、彼の部下とバーの直属の側近外に知る者はいない。

「何かある」で見解一致

さらに驚くべきなのは、共和党の主張に反して、アメリカのあらゆる種類のメディアがロシア疑惑についてはほとんど正しく理解していた点だ。各メディアはムラー報告書に関し、ほぼ核心を突く報道を行っていた。

16年米大統領選に、ロシア政府は2つの方法で関与したと指摘されている。ロシアのインターネット・リサーチ・エージェンシー社(IRA)による偽情報の流布と、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)によるハッキングだ。

過去2年を振り返っても、この直接的・間接的な支援についてトランプとロシア政府の間に事前の合意が交わされたという報道はなかった。著名ジャーナリストの中にも、トランプ(および彼の関係者)とIRAやGRUの間に事前合意が結ばれた証拠があると明らかにした人はいない。そうした証拠が表に出てこなかったからだろう。

報告書の概要からは、ムラーも同じ意見だと分かる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、オバマケア補助金延長に反対も「何らかの

ワールド

ウクライナ「賠償ローン」、EU諸国格付けに悪影響及

ワールド

ASEANとミャンマーの対話再構築、選挙後も困難=

ビジネス

海運マースク、紅海経由航路の運航再開へ 条件許され
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中