最新記事

日米関係

墜落したF35、1機分のお金で何ができたか―「欠陥商品」147機6兆2000億円を爆買いの愚

2019年4月16日(火)11時17分
志葉玲(フリージャーナリスト)

2018年12月24日、三沢基地で行われたF-35A配備記念式典 U.S. Air Force/Tech. Sgt. Benjamin W. Stratton/Handout via REUTERS

<度重なる事故で性能が疑問視されているF35の爆買いをアメリカに約束した日本。その代償は高くつく>

航空自衛隊三沢基地(青森県)所属の最新鋭戦闘機F35Aが太平洋上で墜落したと、10日、岩屋毅・防衛大臣が記者団に語った。同戦闘機の尾翼の一部が発見されたものの、操縦していた自衛官は、まだ行方不明のまま。大変痛ましいことであり、筆者としても、その生存を祈りたい。他方、F35シリーズは、以前からその安全性が疑問視されてきた上、1機116億円もする「米軍史上、最も高価な戦闘機」であることから、同シリーズを147機も爆買いしようとする安倍政権の計画にも批判の声が上がっている。

懸念されていた966件の欠陥

安倍政権の兵器爆買いの問題を指摘してきた市民団体「NAJAT(武器取引反対ネットワーク)」代表の杉原浩司さんは「F35のトラブルは以前から懸念されていた」と語る。

20190412-00122036-roupeiro-002-9-view.jpg
(F35A戦闘機 米国防総省のサイトより)

「今年2月に国会で宮本徹・衆院議員が追及したように、F35シリーズは昨年1月の時点で未解決の欠陥が966件もあることが、米政府監査院(GAO)に指摘されていました。実際、2017年にパイロットの酸素欠乏が6回も起きるなど、F35シリーズは重大トラブルを起こしていますし、未だそれらの欠陥を改善しきれていません。F35シリーズの海兵隊仕様であるF35Bは、昨年9月に墜落事故を起こし、米国防総省は国内外の全てのF35シリーズの飛行を一時停止していました。それにもかかわらず、2012年に決めていたF35Aを42機購入に加え、安倍政権は昨年末に閣議決定した『中期防衛力整備計画』で、105機(うち42機はF35B)も追加購入するとしているのです」(杉原さん)。

【動画】F35 欠陥把握せずに爆買い(2019.2.15 衆院予算委員会 宮本徹議員の質問)


1機116億円のF35のかわりにできたこと

安全性に疑問が持たれる上、1機116億円という高価さからも、杉原さんは安倍政権のF35シリーズ爆買いを批判する。

「政府の給付型奨学金の予算は、2018年度で105億円とF35A1機分より少ない。今年3月に打ち切られた、原発事故での自主避難者への福島県からの住居支援の額が約80億円です。F35A1機分のお金があれば、90の認可型保育所を新設できます。F35シリーズは維持管理費も高く、運用30年で1機あたり307億円もかかります。安倍政権が計画している147機の購入費・維持管理費をあわせると、総額で6兆2000億円という莫大な金額となります。人々の暮らしや教育への支援をないがしろにしながら、トランプ政権に媚を売るために、欠陥戦闘機を爆買いすることは許されません」(同)。

野心的な軍拡を進める中国やロシアに対抗するためには、防衛費増はやむ無しという主張もあるが、杉原さんは「むしろ、逆効果」と反論する。「レーダーに映らず、強力な爆弾を搭載できるF35シリーズは極めて攻撃性の高い戦闘機で、日本の防衛戦略の基本方針である『専守防衛』の域を超えています。F35シリーズを自衛隊が大量配備することは、中国やロシアにさらなる軍拡の口実を与え、際限のない軍拡競争で日本の財政をさらに圧迫するという事態を招きかねないのです」(杉原さん)。

兵器爆買い、トランプのさらなる要求を招く

安倍政権のF35シリーズ爆買いの背景には、安全保障とは別の動機もあるようだ。防衛省や自衛隊の動向に詳しい半田滋・東京新聞論説兼編集委員に筆者が聞いたところ「米国のトランプ大統領は日本の自動車に関税をかけようとしています。それを防ぐため、F35シリーズやイージス・アショアなど米国の兵器を爆買いしているのです」という。「これに味をしめたトランプ大統領が来年秋の大統領選での再選に向けて、日本へさらに法外な要求をしてくるかもしれません」(同)。

カナダはF35購入を白紙に

トランプ大統領のご機嫌をうかがうために、あまりに高価かつ安全性にも疑問が生じているF35シリーズを爆買いするべきなのか。カナダも、トランプ政権から貿易摩擦にからみ圧力を受けているが、F35シリーズについては、65機を購入する計画を白紙にし、今年5月に改めて次期戦闘機の入札を行うとしている。その入札は、必ずしもF35にこだわらず、ユーロファイタータイフーン(英独伊等の共同開発)や、ラファール(フランス製)、グリペン(スウェーデン)も含めて行うのだという。

日本としても、今回の事故の原因を徹底的に検証するとともに、人々の生活や教育への支援をないがしろにしている中での兵器爆買い自体を見直すことが必要なのではないだろうか。
(了)

[執筆者]
志葉玲
パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。オフィシャルウェブサイトはこちら

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ナスダック、中国企業や取引薄い企業の上場基準厳格

ビジネス

スウェーデンEVポールスター赤字拡大、米関税など響

ワールド

米ホワイトハウス、WTOを資金削減リストから除外

ビジネス

EXCLUSIVE-BYD、25年販売目標を16%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 9
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中