最新記事

銃乱射事件

相次ぐ銃乱射関連自殺の原因か、銃乱射は「やらせ」、遺族も「共犯」と責める陰謀論

Senator Blames Alex Jones, Big Tech in Wake of Suicides

2019年3月27日(水)18時45分
ベンジャミン・フィアナウ

2012年に起きたサンディフック小学校の銃乱射事件で6歳の娘アビエルを亡くしたジェレミー・リッチマン(中央)は、3月25日に自ら命を絶ったとみられる Michelle McLoughlin-REUTERS

<銃乱射事件の生存者や遺族の自殺が相次ぎ、乱射事件をやらせと拡散して嫌がらせをする右派の活動が問題視されている>

アメリカでは、この1週間余りの間に学校での銃乱射事件関連の自殺が3件も続いた。この異常事態に、かねてから学校での銃乱射事件は陰謀だと公言してきた右派の論客アレックス・ジョーンズに非難が集まっている。

自殺したのは、銃乱射事件のサバイバー2人と犠牲になった子どもの父親1人だ。2018年2月に銃乱射事件が起きたフロリダ州パークランドのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校では、乱射を生き延びた生徒2人が、3月17日と22日に相次いで命を絶った。2012年にコネチカット州ニュータウンのサンディフック小学校で起きた乱射事件で小学1年生の娘を亡くしたジェレミー・リッチマンは、25 日に死亡した。

<参考記事>銃乱射生存者2人と犠牲者の父親が相次いで自殺

荒唐無稽なフェイクニュースや陰謀論を自らのサイト「インフォウォーズ」などで展開するジョーンズは、26人が死んだサンディフックの銃乱射事件を銃を規制したい活動家が仕組んだ「やらせ」と決めつけ、遺族は悲しみを演じる共謀者(クライシスアクター)だと主張した。

17人が犠牲になったパークランドの銃乱射事件についても、生き残った生徒や銃規制を求める活動家は民主党の工作員だと主張した。

乱射事件の犠牲者の遺族はジョーンズを名誉棄損で訴えている。自殺したリッチマンはその原告の一人だった。3月25日にリッチマンが死んだとわかると、「計ったようなタイミングだ」と、ジョーンズはインフォウォーズに書いたという。「(ロシア疑惑に関する)捜査報告書から目を逸らすためだろう」

第2の犠牲を防げ

自分が名誉毀損訴訟の被告になっていることまで冗談のネタにし、「子供たちを殺したのは私だとでも言うのだろうか」などと繰り返し発言してきた。コネチカット州裁判所のバーバラ・ベリス判事は先月、宣誓供述書の提出に加えて、インフォウォーズの財務記録と宣伝物を引き渡すようジョーンズに命じた。利益を上げるために信じてもいない陰謀論をでっち上げ、遺族に嫌がらせをするよう「共謀者」たちに仕向けた可能性が争われているためだ。

米上院議員のクリス・マーフィーは、テレビに出演してジョーンズをこう非難した。「あの男のせいで、乱射事件は陰謀だったと信じ込む人間が出てきてしまった。おかげで犠牲者の親のなかには(脅されて)、引っ越すなどして身を隠しさざるを得なくなった人もいる」

また、ジョーンズが発した陰謀論とヘイトスピーチがあっと言う間に広がったのはネットのせいだ。インフォウォーズはすでにあらゆる主要メディアから締め出されているが、ジョーンズの陰謀理論の拡散を許したのはソーシャルメディアだと、マーフィーは言う。

「ジョーンズのような人間を完全に消すことは不可能だが、フェイスブックやツイッターはもっと中身を管理できたはずだ」と、マーフィーは言う。「乱射事件の遺族たちは、『子どもの死を冒涜する』陰謀論者を捕まえるために毎日ネットを見ずにいられない。『第2の犠牲者』だ」

(翻訳:栗原紀子)

※4月2日号(3月26日発売)は「英国の悪夢」特集。EU離脱延期でも希望は見えず......。ハードブレグジット(合意なき離脱)がもたらす経済的損失は予測をはるかに超える。果たしてその規模は? そしてイギリス大迷走の本当の戦犯とは?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、方向感欠く取引 来週の日銀

ビジネス

米国株式市場=3指数下落、AIバブル懸念でハイテク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中