最新記事

銃乱射

銃乱射生存者2人と犠牲者の父親が相次いで自殺

PTSD Symptoms, Causes: Second Parkland Student Dies By Suicide In A Week

2019年3月26日(火)18時30分
マドハール・デイブ

2018年2月4日のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件の犠牲者17人に1周年の祈りを捧げる Joe Skipper-REUTERS

<銃乱射関連の自殺が1週間で3件、アメリカの病気が生んだ銃の「2次被害者」たち>

2018年2月にフロリダ州パークランドの高校で銃乱射事件が起き、生徒14人、教師3人が犠牲となってから1年あまりが過ぎた。その際に生き残った生存者2人が、ここ1週間のうちに続けて自ら命を絶った。

地元警察の発表によると、銃乱射サバイバーの女性シドニー・アイエロ(19歳)が3月17日に自殺してから1週間後に、別のサバイバーが自ら命を絶ったと発表した。2人目の自殺者の名前と死因は明らかにされていないが、男性で、銃乱射事件の現場だったマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校の2年生だったという。

2018年に同校を卒業したアイエロは、犠牲者のひとり、メドウ・ポラックの親しい友人だった。アイエロの両親によれば、娘は「サバイバーズ・ギルト」(事故や事件の生存者が、自分だけが助かったことに罪悪感を持つこと)に悩まされ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)だと最近診断されたところだった。

さらに今週月曜には、2012年にコネティカット州ニュータウンのサンディフック小学校で起きた銃乱射事件で1年生の娘アビエールを失ったジェレミー・リッチマン(45)が町の集会所で死んでいるのが見つかった。警察は詳細を明らかにしていないが、自殺とみられる。

神経薬理学者のリッチマンは、事件後、アビエールの名を冠した財団を創設し、暴力をなくす活動をしていただけに、地元ではショックが広がっている。

10代と成人の心の健康を見守り、自殺防止に取り組む非営利組織「ジェド基金」の最高医療責任者(CMO)ビクター・シュワルツは、「身近な人の死に直面しただけで、自殺のリスクは少し高くなる。サバイバーズ・ギルトがある場合、さらにリスクが高くなるのは自然なことだ」と述べた。

シュワルツはさらに、パークランドの生徒たちは、銃規制の必要性を訴える仕事を驚くほど見事に果たしてきたが、いまだに悲しみと苦悩を抱えていると話す。「同校の生徒の多くは、いまでもPTSDのような症状で苦しんでいるはずだ。そうでないはずがない」

底知れぬ悲しみと苦悩

アメリカ精神医学会はPTSDを、「戦争や自然災害、事故、テロ攻撃、性的暴行やそのほかの暴力行為といったトラウマ的な出来事を経験あるいは目撃した人に見られる可能性がある精神障害」と定義している。親しい友人や家族、パートナーを亡くしたあとにPSTDになることもある。学校の銃乱射事件で生き残った人の中には、負傷や被弾がなくてもPTSDの症状で苦しむ人たちがいるが、それは死体を見たり、同級生が撃たれたり負傷したりするところを目撃したことなどが原因だという。

PTSDの症状は通常、トラウマになるような出来事が起きたあと、最初の3カ月以内に始まるが、数年経ってから苦しみ始めることもある。症状は1カ月以上続き、人間関係や仕事で問題を引き起こす場合もある。医師によれば、症状の経過はまちまちで、治療をして6カ月以内で治まる人もいれば、何年も続く人もいるという。

PTSDの症状には以下のようなものがある。

侵入思考:無意識のうちに、嫌な記憶が蘇る、悪夢を見る、事件のフラッシュバックが起きるといった状態が続く。フラッシュバックが鮮明すぎる場合、その出来事を追体験あるいは再体験しているような気持ちになることがある。

回避症状:PTSDで苦しむ人々は、出来事の記憶を呼び覚ます可能性のある場所や人、行動、物事、状況を避けようとすると言われている。また、出来事に関係した感情について話したがらない。

否定的な思考と感情:PTSDの患者は、自分自身や他人について歪んだ考えを持ち、「だれも信頼できない」「自分は悪い人間であり、生きている資格がない」などの思いを抱くことが多い。また、大きな音や強い光などに恐怖心を感じる状態が続く。生き残ったことに対して強い罪悪感を抱き、恥だと思う。かつて楽しんでいたことへの関心を失い、親しい人から切り離されたような孤独感を持つ。

興奮状態と反応性症状:PTSD患者は苛立ちや怒りを感じやすく、ささいなことで感情を爆発させる。また、無謀な行動や自己破壊的な態度をとることがある。小さなことに驚き、同じ出来事が再び起きるのではないかとつねに不安を抱えている。集中困難や睡眠障害も見られる。

パニック障害やうつ症状、薬物乱用、自殺願望、重度の不安も、PTSDに多い症状だ。

PTSDは完治できないが、治療は可能であり、投薬や心理療法によって抑制できる。

(翻訳:ガリレオ)

※4月2日号(3月26日発売)は「英国の悪夢」特集。EU離脱延期でも希望は見えず......。ハードブレグジット(合意なき離脱)がもたらす経済的損失は予測をはるかに超える。果たしてその規模は? そしてイギリス大迷走の本当の戦犯とは?

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

冷戦時代の余剰プルトニウムを原発燃料に、トランプ米

ワールド

再送-北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行っ

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き

ワールド

インテル、米政府による10%株式取得に合意=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で見つかった...あるイギリス人がたどった「数奇な運命」
  • 4
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 10
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中