最新記事

音楽

四川省出身のチャイナラッパーが世界に大躍進

From Chengdu With Flow

2019年3月19日(火)18時00分
クリスティーナ・チャオ

近くワールドツアーも予定しているハイヤー・ブラザーズの4人 88rising

<四川省出身のヒップホップグループ、ハイヤー・ブラザーズが異例の世界的な大ブレイクを果たした要因とは>

中国の人気ヒップホップグループ、ハイヤー・ブラザーズのユニット名の由来は......エアコンだ。16年夏の蒸し暑い日、四川省成都のスタジオで4人の若者たちが部屋のエアコンに目をやると、中国の家電大手ハイアールの有名なロゴが目に入った。

ハイアールのマスコットは、2人の男の子。このコンビが世界を旅して新しい文化に触れたり、人類を自然災害から救ったりする設定になっている。「ハイアール兄弟」は、中国でアニメ化もされた大人気のキャラクターだ。

「ハイアール兄弟みたいに有名で国際的な存在になりたいと思った」と、メンバーの1人、マシウェイは本誌のインタビューで振り返る。「(このマスコットに)触発されて、自分たちがそんなふうになる未来を想像して曲を作った」

こうして、マシウェイ(25)とDZノウ(21)、サイP(23)、メロ(23)の4人組は、ハイアール(Haier)・ブラザーズをもじってハイヤー・ブラザーズ(Higher Brothers)を名乗ることにした。

いま4人は、中国史上で有数の人気ヒップホップグループだ。国外での活躍も目立つ。2月22日には、セカンドアルバム『ファイブ・スターズ』をリリース。ゲストとしてスクールボーイ・QやJ.I.D、ソウルジャ・ボーイ、デンゼル・カリー、スキー・マスク・ザ・スランプ・ゴッドなどアメリカの有名ラッパーが参加した。5月からはワールドツアーも予定している。

昨年は、アクティブユーザー数6億人を誇る中国の有力音楽配信サービス、網易雲音楽(ネットイース・クラウドミュージック)の最優秀ヒップホップアーティストに選ばれた。アディダス、スプライト、ゲスなど、国際的ブランドの広告キャンペーンへの起用も相次いでいる。中国本土、香港、台湾でのライブの成功を引っ提げて、昨年春には初の北米ツアーも行った。

共産党のお気に入り?

ヒップホップに限らず、中国本土の音楽ユニットが国際的にこれほどの成功を収めた例はない。中国政府は国産ポップスターの育成に莫大な資金をつぎ込んできたが、「輸出」にはほとんど成功してこなかった。

ハイヤー・ブラザーズが異例の国際的な成功を収められた大きな要因は、東洋と西洋の間に橋を渡すのが上手なことだとよく言われる。彼らはラップのリズムに乗せて、英語と中国語のバイリンガルの歌詞で中国人の自尊心を表現する。

17年に大きな反響を呼んだシングル「メイド・イン・チャイナ」では、中国人に対する偏見の矛盾を突いた。歌詞には「俺のチェーンと腕時計はメイド・イン・チャイナ」といったくだりがある。

「メイド・イン・チャイナ」のMV


曲のイントロには、グループの専属通訳で映像作家でもあるラナ・ラーキンの声が入る。「ラップ? 中国の? いったいなんて言ってるの? これが中国のラップ? 『チン・チャン・チョン』としか聞こえないんだけど!」。そうした中国人ラップへの懐疑的な見方に反論するために、メンバーは「メイド・イン・チャイナ」を作った。

「本当に腹が立った」と、サイPは語る。「テレビをつければ、アメリカの人たちが中国製品をたくさん持っていると分かった。そこで、そのことを曲にしようと思った」。この曲のミュージックビデオは、YouTubeで1500万回以上再生された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英、2030年までに国防費GDP比2.5%達成=首

ワールド

米、ウクライナに10億ドルの追加支援 緊急予算案成

ワールド

ロシア夏季攻勢、予想外の場所になる可能性も=ウクラ

ビジネス

米テスラ、テキサス州の工場で従業員2688人を一時
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中