最新記事

対中投資

全人代「一見」対米配慮の外商投資法

2019年3月7日(木)13時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

日本の場合は、日中平和友好条約締結40周年記念という節目の年だったからという言い訳がつくかもしれないが、実際問題としては、もしトランプ大統領が対中貿易に関して高関税をかけたり半導体の(アメリカから中国への)輸出を禁止あるいは制限したりなどしていなければ、習近平国家主席が安倍首相に秋波を送ってくることなどということはあり得ない。これまでも中国は米中関係が悪化すると必ず日本に接近してくることを常套手段としてきた。

こういう時にこそ、日本は毅然として中国をはね付け、「尖閣問題などに関しても中国が日本の領有権を認めなければ、どんなに接近してきても応じない」という態度を示すことができたのだが、日本はそうはしなかった。この滅多にない千載一遇の絶好のチャンスを「中国にひれ伏す」という形で、喜んで受け入れてしまっている。

他の国も経済界の事情を優先的に重視して、結局、中国の手に墜ちていったのである。こうして中国は外気企業の前年比70%増という、驚異的な数値をはじき出してしまった。

外商投資法の注目すべき内容

そこで中国政府は「改革開放の度合いが拡大したため、現状に合わなくなったので外商投資法を新しく制定する必要に迫られた」として、今般の全人代で「外商投資法」を制定するに至ったのである。

事実、全人代が開幕する前の3月4日、人民大会堂のプレスホールで、張業遂報道官は外商投資法に関して、以下のように説明している。

――近年、中国の対外開放と外資利用は新たな情勢に直面し、「外資三法」では開放型経済の新たな体制を構築するというニーズに応じることが難しくなってきた。外商投資法は、これまでの「外資三法」に代って、(習近平政権の)新時代における中国の外資利用の基礎的法律となる。

張業遂報道官の説明と中国政府がこれまで行ってきた様々な法解釈をまとめると、「外商投資法」においては、概ね以下のようなことが規定されることになる。法律の文書を直訳せずに、概念的に分かりやすい、馴染みのある表現で主要なものだけを取り上げる。

1.外資の投資に当たり、行政的手段により技術移転を強制することを禁止する。

2.外資企業の運営に当たり、中国政府は介入しない(国有企業は中国政府そのものなので、国有企業との提携の場合は例外となる)。

3.外資100%の企業を認める(これまでは基本的に中国側が51%であることが多かった)。

4.外資企業が中国から撤退したいと決定したとき、市場からの退出に関して条件を付けない(これまでは、タダでは撤退できなかった。巨額の負担を負わせられた)。

5.外商投資に対し、参入前内国民待遇とネガティブリストの管理制度を実施し、案件ごとの審査制という管理モデルを廃止すると明確に規定する。外国投資者における投資の禁止と制限に関してはリスト化して明確に列挙する。リスト外の分野は充分に開放され、国内外の投資は同等の待遇を受ける。

......などなどである。最後の項目で使われている用語が、やや専門用語的なので、少し解説を加えた方がいいかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中