最新記事

環境

身の回りの化学物質が子供の健康を脅かす

Bad Chemistry

2019年3月5日(火)17時20分
レオナルド・トラサンデ(ニューヨーク大学医学大学院教授)

レンジと食洗器の注意点

まず、農薬について見てみよう。多くの農薬の有効成分である有機リン酸エステルは、第二次大戦中に化学兵器の神経剤として開発された。神経剤は脳の正常な機能を妨げる。その濃度を下げたものが農薬として用いられるようになった。

有機食品を食べれば、尿中の有機リン酸エステル分解物の濃度が下がることが分かっている。イチゴ、ブドウ、サクランボなどは体内に取り込まれる農薬の量が多く、丁寧に洗っても農薬を十分に取り除けないという。アスパラガスやカリフラワーは、残留農薬が比較的少ない。ジャガイモは、皮を食べないようにしてもいいだろう。

可塑剤はどうか。食品パッケージなどのプラスチックに柔軟性を持たせるための可塑剤として、フタル酸エステルという物質が用いられる。この化学物質は、スキンケア用品などに香りを付ける目的でも使用される。

フタル酸エステルは、肥満の原因になる可能性がある。ローションや化粧品に用いられるものの一部はテストステロン(男性ホルモン)の働きを妨げ、缶の内側のコーティングやプラスチックの食品パッケージに用いられるものの一部は体内でエストロゲン(女性ホルモン)と同様の作用をする場合がある。実験では、甲状腺刺激ホルモンの生成をつかさどる遺伝子の発現に影響することも分かった。

体内に取り込まれるフタル酸エステルの量を減らすためには、缶詰食品を避け、生鮮食品や瓶詰食品を選ぶほうがいい。フタル酸エステルが使われているポリ塩化ビニル(PVC)製の容器も避けたい。

使い捨てプラスチック容器の再利用は危険。プラスチックの食器に食べ物を入れて電子レンジで加熱したり、プラスチックの食器を食洗器で洗うのもやめるべきだ。強い洗剤で洗うとプラスチックが削れて、食品に入り込みやすくなる。傷の付いたプラスチック製の食器は思い切って処分しよう。

BPAは、プラスチック原料として用いられる化学物質だ。食器や飲料品のボトルのほか、食品缶詰や缶飲料の内側のコーティングにも使われている。この物質は甲状腺が正常に働くことを妨げ、脳の大脳皮質の発達過程で甲状腺ホルモンが役割を果たせないようにする場合がある。大脳皮質は、人間特有の機能の多くを担う部位だ。

最近は、プラスチック製の容器などで「BPA不使用」をうたっているものも多い。しかし、BPP、BPF、BPS、BPZ、BPAPなど、BPAの代わりに用いられている物質にも同様の危険がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

金が最高値更新、米・ベネズエラ緊張で 銀も最高値

ワールド

ボルソナロ氏長男、穏健政策訴えへ 出馬意向のブラジ

ビジネス

11月の基調的インフレ指標、加重中央値と最頻値が伸

ワールド

米、ナイジェリア上空で監視飛行 トランプ氏の軍事介
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中