最新記事

アメリカ政治

トランプ、国境の壁めぐり「国家非常事態宣言」 法廷闘争に発展へ

2019年2月16日(土)10時03分

トランプ米大統領は議会の承認を得ずにメキシコ国境の壁建設費を確保するため、メキシコ国境を巡り国家非常事態を宣言すると表明した。写真は15日、ホワイトハウスで会見するトランプ大統領(2019年 ロイター/Carlos Barria)

トランプ米大統領は15日、議会の承認を得ずにメキシコ国境の壁建設費用を確保するため、国家非常事態を宣言。民主党は憲法違反として、提訴する構えを見せているほか、共和党内でも見解が分かれている。

法廷闘争に発展するのはほぼ確実で、2020年の米大統領選まで尾を引き、トランプ氏に対する批判勢力を勢いづかせる可能性がある。

法律学者らによると、法廷闘争における争点は(1)メキシコ国境に本当に非常事態が存在するか(2)税金の使途を巡る大統領の裁量権──の2点に集約されそうだ。

大統領の裁量権

税金の使い道は通常、議会で決めることが憲法で定められている。

しかし1976年に成立した「国家非常事態法」により、国家が非常事態に直面した際には議会採決を経ずに大統領が資金の使途を決めることができるようになった。法律専門家によると、この法律は「非常事態」を定義していないため、非常事態宣言に際しての大統領の裁量は大きい。

同法はまた、議会に非常事態宣言を無効化する権限を持たせているが、その場合には上下両院が行動を起こす必要がある。現在、上院はトランプ氏と同じ共和党、下院は民主党が支配しているため、実現は難しそうだ。

1979年以降、国家非常事態宣言が発効したのは約30回で、79年のイラン米大使館人質事件や2009年の豚インフルエンザ感染拡大などが含まれる。

乏しい前例

大統領の国家非常事態宣言を巡り、法廷闘争が行われた前例はほとんどなく、闘争の行方について専門家の見方は分かれている。

テキサス大の国家安全保障法教授、ロバート・チェスニー氏によると、トランプ大統領の宣言に対する訴訟は成功するかもしれないとしつつ、裁判所は通常、国家安全保障に関しては大統領の顔を立てるとの見方を示した。

ブレナン・センター・フォー・ジャスティスの弁護士、エリザベス・ゴイティン氏は、大統領の国家非常事態宣言に関するさまざまな法律に鑑みると、壁の建設は許容できないことを示す強い論拠があると述べた。

米最高裁は、下院の個々の議員がホワイトハウスの行動について提訴する権限を否定しているが、下院全体としての提訴であれば法的権限が強まる可能性がある。

またチェスニー氏によると、トランプ氏が軍事費を壁建設に振り向ける結果、事業契約を破棄されることになる個人や企業も、同氏を提訴する可能性がある。壁建設のために土地を接収される土地保有者も同じだ。

仮に非常事態の存在が認められたとしても、トランプ氏は現実的な問題に直面する。本年度の軍事建設プロジェクト予算、約104億ドルの中で、壁建設に回せる資金を確保する必要があるためだ。

米軍は、軍事建設予算にどれほどの余裕があるかを公表しておらず、壁建設を大きく進めるだけの資金が残っているかは不明だ。

Ginger Gibson and Jan Wolfe

[ワシントン 15日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 Newsweek Exclusive 昭和100年
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月12日/19日号(8月5日発売)は「Newsweek Exclusive 昭和100年」特集。現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「非常に生産的」、合意には至らず プーチ

ワールド

プーチン氏との会談は「10点満点」、トランプ大統領

ワールド

中国が台湾巡り行動するとは考えていない=トランプ米

ワールド

アングル:モザンビークの違法採掘、一攫千金の代償は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 5
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 7
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 8
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 9
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 10
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中