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60 歳を迎えて老後の生活資金を考える

2019年1月15日(火)19時00分
安孫子佳弘(ニッセイ基礎研究所)

定年後の「雨」に備えるには Chunumunu/iStock.

<会社員や公務員には定年がくる。そのとき年金の受け取り方や資産運用をどうすればいいのか? 難解な説明は省いて基本を解説しよう>

会社に勤務する者として 60 歳を迎えるに当たり、老後の生活資金を確保する上で、様々な意思決定をしなければならない。年金の受け取り方や老後の資産運用をどうすべきか等は各種雑誌や書籍に加え、インターネット上でいろいろな情報が溢れているが、仕組みが結構複雑で、概要を理解するだけでも簡単ではない。そこで、会社員や公務員を主な対象に、詳細な説明を省き、基本的なことに関しての考え方について私見を述べていきたい。

1――厚生年金や基礎年金をどう受け取るべきか

厚生労働省は標準的なモデル世帯として平均的な男子賃金で 40 年間厚生年金に加入した夫と、40年間専業主婦の夫婦を想定しており、65 歳から受け取る年金は概算で、夫の基礎年金で月6万 5,000円、厚生年金で月9万円、妻の基礎年金で月6万 5,000 円、夫婦2人合計で月 22 万円程度となる。

尚、65 歳前に特別支給厚生年金を受給できる人もいるが、65 歳まで働いて給与をもらうと受給額が減り、影響は少ないので説明は省略する。

さて、結論から言うと、厚生年金や基礎年金はできる限り「繰り下げ」すべきだと思う。

当然、「私は長生きしないので損するから繰り下げない」という意見も出てくるであろう。しかし、考えて欲しいのは何のための公的年金なのかということである。目的は「老後の生活資金確保」であり、長生きした場合の保険である。従って心配すべきなのは「長生きした時に生活する資金を十分確保できるのか」であって、「投資として損するかもしれない」ということではないはずである。幸運にも 90 歳まで生きていた場合に、貯蓄を切り崩し残高がなくなり、公的年金だけになっても、ちゃんと生活できるのかをもっと心配すべきではないだろうか。

そこで「繰り下げ」が「老後の生活資金確保」にとってどれだけ有効なのか見てみたい。上記モデル世帯で夫と妻が同年齢で 65 歳受給開始年金月額が 22 万円とすると、70 歳まで「繰り下げ」ると夫婦2人世帯の年金月額は 31.2 万円にまで増加する。(【表1】参照)

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65 歳から 70 歳までの5年間は、働いたり、退職金や貯蓄やその他で生活資金を賄わなければならないが、5年間我慢して年金受給額が 42%も増えるのは、その後の生活の安心感につながると思う。

勿論、税金控除後だと、多少目減りするが、それでも大幅に増えることには違いがない。

公的年金は投資として考えるべきではないと述べたが、念のため、投資として考えて損しなくなる年齢(損益分岐年齢)もご参考に算出している。その年齢以上に長生きするリスクは結構高い(その歳まで絶対死ぬのかどうかは分からない)のではないだろうか。何度も繰り返すが、公的年金は老後の安定した生活のための保険であり、最大のメリットは死ぬまでもらえる終身年金であることなので、できるだけ「繰り下げ」て、公的年金の受給金額を増やした方が良いのではないかと思う。

尚、「繰り下げ」は夫の基礎年金、厚生年金、妻の基礎年金、それぞれ「繰り下げ」期間を最大5年間、月単位で選択できるので、自由度が高い。但し一旦「繰り下げ」を選択すると、受給額を増やしたまま元に戻すことはできないので、今後の老後生活をどうすべきかを良く考えて選択すべきである。

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