最新記事

監督インタビュー

元中国人・李小牧の立候補ドキュメンタリー『選挙に出たい』の監督が使えなかったシーンとは

2018年12月4日(火)16時00分
大橋 希(本誌記者)

――確かに、元中国人という理由で街頭演説中に罵声されるシーンは見るのが辛い。

そうですね。日本人は優しいし、私の周りの人はみんな優しいから意外だった。私は今年の2月まで日本に13年間住んでいたが、(ひどいことを言われた経験は)一回もなかった。

――その一方で、暖かい言葉をかけてくれる人もいた。

この映画は中国での上映も考えていたから、日本人はみんな厳しいとか、中国に対して非友好的な態度だとか、そのように誤解してほしくなかったので、暖かく応援してくれた人たちの姿も入れました。

中国の映画祭で上映したときは、「監督自身も含めて、中国人が日本で生活するのは大変ですか」「日常的にバッシングはあるんですか」と聞かれた。それは選挙だからあったことで、日常生活でそういうことはないと答えたのですが。しかもバッシングのほうが印象は強いから、どうしてもそういう場面が注目されがちだが、実際は優しい人たちの姿も入っている。だからバランスよくみてもらいたい、と伝えた。

私も日本に長く住み、日本が好き。中国人の観客に、日本人は怖いというイメージは絶対に与えたくなかった。

――撮影中は、応援とバッシングとどちらを多く見た?

毎回、街頭演説を見に行ったわけではないが、私が見た限りでは半々かな? あとは李さんが何をアピールしても、泣いても笑っても、結局無視されることが多かった。罵声や応援に比べたら、圧倒的に無反応が多いんじゃないですか。日本人は政治に無関心というか......。

senkyo181204-02.jpg

歌舞伎町の住人である李小牧には「夜の顔」もある

――彼は歌舞伎町の住人でもあり、いかがわしさを感じる人もいると思う。最初に会ったとき、怪しいイメージはなかった?

あったんですよ(笑)。でも李さんは礼儀正しい人で、私が女性で、取材したら危ないということはない。でも確かにときどき、そんな冗談言うの? とびっくりしたことはあるんですが。でも全体的には、女性に対してすごく礼儀正しい人。

――女性だから撮影しにくい場所というのはなかった?

それは特にない。反対に、ホストクラブは女性だから入りやすかったというのはありますが。(撮影中は)私はいつも終電で帰っていた。李さんはあの世界の人間だから、夜中には違った一面をみせる。でも今回はあくまで選挙についての作品にしようと思っていたので、別の意味で人の興味を引くような、選挙にとって余計な部分は全部省いた。これから遊びに行く雰囲気だな、と思ったら、「これで失礼します」と。あくまで候補者としての李さんを撮った。

――撮影したが、作品に入れなかった場面もいろいろあると思うが。

例えば、李さんに対する現役警察官のコメントは取れたし、やーさんのコメントも取れた。でも、それは選挙の(世界を描く上では)邪魔になるから捨てよう、と。歌舞伎町の部分は人の興味を引くだろうし、見ればそれなりに面白いが、でも1本の作品においてはちょっと邪魔だった。苦労して撮れたとしてもマイナスの効果があるとしたら捨てよう、と。

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、ポーランド軍に対ドローン訓練実施へ

ワールド

コンゴ、エボラ出血熱死者31人に 3年ぶり流行で

ワールド

小泉農相、20日に総裁選出馬会見 午前10時半から

ワールド

南ア中銀、政策金利据え置き 過去の利下げの影響見極
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中