最新記事

中国社会

「中国発展の代償は我われの命」 経済成長支え使い捨てられた出稼ぎ労働者の嘆き

2018年12月24日(月)10時42分

12月14日、2000年前後の4年間、中国深センで解体作業員として働いていたWang Zhaohongさん(写真)は、かつて国境沿いの寒村だったこの街を、活気あふれる大都市に変貌させたこの仕事が自分の命を奪うことになると語った。中国湖南省桑植県の自宅のベッドの上で取材に応じるWangさん。11月撮影(2018年 ロイター/Sue-Lin Wong)

2000年前後の4年間、中国深センで解体作業員として働いていたWang Zhaohongさんは、かつて国境沿いの寒村だったこの街を、活気あふれる大都市に変貌させる手助けをした。

現在、寝たきりでやせ細った50歳のWangさんは、苦しい息の下から、結局あの仕事が自分の命を奪うことになる、と語る。

湖南省にある辺境の県からやってきたWangさんや仲間の作業員たちは、深センの開発ブームの中で、適切な安全装備もないまま、大量の粉じんを吸い込んだせいで、「珪肺(けいはい)」と呼ばれる肺疾患を発症した。

Wangさんの症状は重い。彼は、次の旧正月は迎えられないのではないかと予感している。

中国は今月、世界第2位の経済大国への発展をもたらした経済政策「改革開放」の開始から40周年を迎える。

数億もの国民が貧困から脱出する一方で、Wangさんのような人々は中国の発展がもたらした大きな人的被害を思い起こさせるが、当局は情報を統制し抗議行動を押さえ込もうとしている。

じん肺、つまり珪肺など粉じんに由来する肺疾患に苦しむ労働者を支援する北京の非政府団体「大愛清塵」の推定によれば、この症状に苦しむ患者とすでに死亡した人の合計は約600万人に達している。

Wangさんなど、湖南省3県からの出稼ぎ労働者数百人は、深セン市に対して補償を求めて抗議している。

「同じマスクを10日間使ってからでなければ、新しいものが支給されなかった」と、桑植県にある生まれ故郷の貧しい村でWangさんは語った。「当時の上司は私たちに、『毎日新しいマスクを使っていたら、どうやって稼ぐんだ』とよく言っていた」

解体作業員の当時の報酬は月5000─6000元(約8万2000─9万8000円)で、他の出稼ぎ労働者が稼ぐ2倍から3倍に達していた。

署名された契約書などはほとんど存在しないため、十分な補償を受けることはほぼ不可能だ。深セン市政府は一部の労働者に対し、症状の重さに応じて、最大22万元の支払いを提示しているが、到底十分とは言えない、と労働者側を代表するGu Fuxiangさんは語る。

すでに10年近くに及ぶ闘争の先行きは暗い。11月初旬には深セン市役所で座り込みが行われたが、治安部隊による暴行を受けたと、参加した5人の労働者は語った。

「ここの地方自治体にとっても深セン市政府にとっても、治安維持が絶対の最優先課題になっている」と自分も軽度の珪肺に苦しむGuさんは語る。「発展の代償はわれわれの命だった。われわれが病気になっても、死んだとしても、政府は気にかけない」

深セン市政府に取材を申し入れると、広報担当者からは警察・社会保障・保健・経済改革の各部門を紹介された。保健部門にコメントを求めたところ、電話を切られてしまい、経済改革部門もコメントを拒んだ。警察・社会保障部門には何度も電話をかけたが応答がなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国務省、人員削減計画を近く開始 影響受ける職員に

ビジネス

リクルートHD、求人情報子会社2社の従業員1300

ワールド

トランプ氏の出生権主義見直し、地裁が再び差し止め 

ワールド

米国務長官、ASEAN地域の重要性強調 関税攻勢の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中