最新記事

エネルギー

「エタノール=クリーン燃料」説のウソ

DOUBTFUL CLAIMS FOR ETHANOL

2018年12月5日(水)16時40分
アンドレ・ベイマン(ミシガン大学W・E・レイ自動車研究所所長)

一部では専用車用の高濃度エタノール混合燃料も販売されている Jim Young-REUTERS

<トランプは中西部の農家向けに優遇策を約束したが、気候変動の抑制効果はほとんど期待できない>

トランプ米大統領は中間選挙の直前、トウモロコシ生産農家が多いアイオワ州でトウモロコシ由来エタノールの販売促進措置を取ると約束した。

このエタノールは植物由来のアルコール燃料の一種で、アメリカの年間ガソリン消費量1430億ガロン(1ガロン=約3.78リットル)の約10%を占めている。利用が本格化したのは80年代。その背景には70年代の石油危機を受けて、輸入原油への依存度を低下させようとする政府の後押しがあった。さらに後になって、温室効果ガスの排出削減という第2の目標も加わった。

だが過去24年間、代替燃料と混合燃料を研究してきた立場から言わせてもらえれば、エタノール比率の増加は古い車のエンジンに問題を起こす。気候変動の抑制効果はほとんど期待できず、むしろ大気汚染が悪化する可能性すらある。

エタノールとガソリンの混合燃料は、20世紀初めに登場したT型フォードの時代から使われていたが、代替燃料として注目を浴びたのは70年代の石油危機後。ジョージ・W・ブッシュ政権時代の05年には、ガソリンやディーゼルに一定量の再生可能燃料を混合することを義務付ける「再生可能燃料基準」が導入され、使用量が一気に増えた。

ほとんどの車のエンジンは、トウモロコシ由来エタノールを最大10%含む混合ガソリン(E10)で問題なく走る。このE10は全米のほとんどのガソリンスタンドで販売している。

一方、エタノールを最大15%含むE15は、全ての州で販売が許可されているわけではない。許可されている州でも、夏季の販売は禁止だ。トランプ政権は、このE15の夏季販売を解禁する方針を打ち出した。

だが、夏の暑い時期にE15を使用すると、混合燃料が気化しやすくなる。蒸発した排ガスはスモッグの成分であるオゾンを増加させ、都市の大気汚染問題を悪化させかねない。

アルデヒドが増加する

おそらくE15の通年販売解禁は、エタノールの販売を増加させ、トウモロコシ農家の助けになるだろう。アメリカ全体の17年の生産量は、輸出分を含めて約160億ガロンに相当する。

エタノール支持派は二酸化炭素(CO2)の排出削減効果があると主張するが、そう断定できるだけの科学的証拠はない。米政府の調査では、トウモロコシ由来エタノールは単位当たりのエネルギー生産効率が生産に要するエネルギー量の1.5~2.1倍しかない。大豆油由来バイオディーゼルの5.5倍に比べ、はるかに効率が悪く、CO2の排出削減効果も小さい。

E15支持派の「低コスト」で「クリーンな空気」を実現できるという説にも疑問がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、NATOにロシア産原油購入停止要求 対

ワールド

アングル:インドでリアルマネーゲーム規制、ユーザー

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐

ワールド

台湾閣僚、「中国は武力行使を準備」 陥落すればアジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 8
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中