最新記事

日本社会

カルロス・ゴーン逮捕に見る日本の司法制度の異常さ

2018年12月7日(金)18時58分
レジス・アルノー(『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員)*東洋経済オンラインからの転載

ゴーン氏の身柄拘束は逮捕後は22日ほど続くはずだ。これは日本における最長の逮捕・勾留日数であり、検察は、証拠を集めたり容疑者を尋問するためにこの期間を最大限に使うことが多い。しかし、1つの容疑ごとに逮捕・勾留が認められていることから、実際の勾留期間は検察の方針次第となる。日本経済新聞などの報道によると、ゴーン氏は勾留期限である12月10日にも再逮捕され、12月30日まで勾留される可能性がある。また、いったん起訴されれば、保釈が認められない限り勾留が続く。

日本における逮捕と勾留の状況は、ほかの先進国の民主主義の標準から大きくかけ離れている。ゴーン氏は起訴すらされておらず、現時点では、無罪と推定され、罪を犯していない人として扱われるはずである。それにもかかわらず、すでに2週間以上勾留され、拘置所の中でも自由をひどく奪われている。

フランスでの勾留時間は最大48時間

パリに拠点を置くフランス人の刑事弁護士であるイヴ・レベルキエ氏は、フランスでは「親類、そして弁護士に自身の逮捕を連絡することがまず許される。通常のケースでは、勾留されるのは24時間または48時間。共謀の嫌疑をかけられているのなら96時間だ」と説明する。

「(フランスであれば)弁護士は、ゴーン氏が勾留される前に同氏と30分間話すことができただろうし、尋問の際にはいつでも立ち会えただろう。ただし、ゴーン氏と話すことはできない。別の罪があったとしても、日本のように勾留の期間が延長されることはない」

「日本の問題は勾留期間の長さ以上にその状態にある。この期間中、弁護士の役割はあまりにも限定的だ」と日仏司法制度の比較を専門とする白取祐司弁護士は言う。

ゴーン氏の事件はフョードル・ドストエフスキー著『死の家の記録』を思い起こさせる。この小説の中で、ロシアの偉大な作家であり、貴族出身の教養あるドストエフスキーは、シベリアの監獄で過ごした4年間の自分自身の経験について語っている。ドストエフスキーの証言は、これまで書かれた中でも、監獄の状況を訴えたものとして最も重要なものである。

ゴーン氏はドストエフスキーのような文学の才能を持ち合わせてはいないし、小菅はシベリアの監獄でもない。しかし、ゴーン氏は、われわれ全員が将来何かの間違いで経験するかもしれない日本の刑事司法制度の重要な証人である。彼の拘置所での経験を明らかにすることは、日本に暮らしているすべての人々にとって(日本人であれ、外国人であれ)利益になることだろう。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中、通商分野で歩み寄り 301条調査と港湾使用料

ビジネス

テスラの10月中国販売台数、3年ぶり低水準 シャオ

ビジネス

米給与の伸び鈍化、労働への需要減による可能性 SF

ビジネス

英中銀、ステーブルコイン規制を緩和 短国への投資6
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 6
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中