最新記事

BOOKS

「パパ活」という言葉はマーケティング会議の中で生まれた

2018年11月20日(火)12時00分
印南敦史(作家、書評家)

だから、どう考えてもパパ活を肯定的に捉えることができないのだが、第6章「パパ活の生まれた場所」は、それとは違う意味でなかなか興味深く感じた。「パパ活」は現場の当事者たちのやりとりや駆け引きの中から自然発生的に生まれたものであるように思えるが、真実はそうではないというのである。


「パパ活」という言葉は、交際クラブ最大手の『ユニバース倶楽部』(本社・東京)によって戦略的につくり出され、戦略的に広められた「パワーワード」である。(172ページより)

「ユニバース倶楽部」の代表は、都内の音大を卒業後、フリーのトランペット奏者として活動したのち、そろそろサラリーマンをやりたいと思ってAVプロダクションの営業職に就いたのだという。そして最終的にはウェブ広告の担当部門に入り、社内独立という形で交際クラブを立ち上げた。

ウェブ広告の使い方から女性の集め方までが非常にシステマティックで、ビジネスとしてのクオリティがとてもしっかりしているのだ。「パパ活」という言葉も、スタッフとのマーケティング会議の中で生まれた。


「スタッフ全員、『交際クラブ』という言葉が大嫌いだったんですよ。この言葉を使って女性求人を打っても、悪い意味で何でも知っているような女性しか来ない。僕たちが欲しいのは、もっとピュアな女性の層です。その頃からは、交際クラブはセックスとお金の交換だけの世界じゃないと感じていた。多くの女性は、登録しているクラブでオファーが来なくなったら、他のいくつかのクラブを回ることが多い。でも、そうした回遊魚のような層はもういらない。自分の夢に向かって頑張る女性が、クラブで出会った男性からサポートを受けて、夢を叶えていく......といった世界にしたい。
 でも、そこに『交際クラブ』といういかがわしい言葉の壁が立ちはだかっている。
 だからこそ、新しい言葉を使うことで、これまでの交際クラブのイメージを切り替えようと思ったんです。そうした会議を重ねる中で生まれた言葉が『パパ活』でした」(179?180ページより)

「ピュアな女性の層」「男性からサポートを受けて、夢を叶えていく」といったフレーズはやはり虚しく聞こえるが、しかし戦略的に仕組まれてきたことは事実で、そこは面白いと感じた。そして、それが利用者のニーズと合致しているのだから、「ビジネスとしては」成功しているのだろう。

なお著者は、パパ活の行われている交際クラブの世界は「自由恋愛の最果ての地」だと表現している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドネシア、340億ドルの対米投資・輸入合意へ 

ワールド

ベトナム、対米貿易協定「企業に希望と期待」 正式条

ビジネス

アングル:国内製造に挑む米企業、価格の壁で早くも挫

ワールド

英サービスPMI、6月改定は52.8 昨年8月以来
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 10
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中