最新記事

地球温暖化

目に見えぬ環境危機、海の生物に何が起きているか?

2018年11月11日(日)12時16分

地球の7割を覆う海洋は、過去数十年で前例のない温暖化を経験し、海流が変化した。こうした隠れた気候変動は、海洋生物に憂慮すべき影響を与えている。写真は、ロブスター漁船。米メーン州で昨年7月撮影(2018年 ロイター/Shannon Stapleton)

大海原の前に立つことは、その永遠性を目の当たりにしていることに等しい。海洋は、実に地球の7割を覆っている。

地上に匹敵するほどの山脈や渓谷が海面下には隠れている。そこは、地球最大の植物や生物の生息地であり、地球上の生き物の大半にとってのすみかとなっている。

ほとんど知られていないこの世界では、熱帯から気温の低い地域へと高速の海流が温かい海水を運び、逆に冷たい海水は極地からより暖かい地域へと移動している。

われわれは、自分の血流と同様に、この仕組みを当然のこととして受け止めている。この仕組みが地球の気温を調節し、人間が生み出した熱や二酸化炭素を吸収して近年の大気温の急上昇の影響を緩和している。気温を調整してくれるこうした海流が存在しなければ、地球で生物が生きていくことは不可能だろう。

だが過去数十年で、海洋は前例のない温暖化を経験し、海流が変化した。こうした変化は地上からはほとんど知る由もないが、隠れた気候変動は、海洋生物に憂慮すべき影響を与えている。事実上、海中で起きている大規模な「難民危機」といえる。

ロイターは、米国の東海岸沖から西アフリカ沿岸地域に至るまで、海洋生物が生き残るために生息地から逃れ、その結果、それら生物に依存していた生物が生存の危機に直面していることを発見した。

海水温が上昇すると、魚や他の海洋生物は極地へと移動し、繁殖に必要な均一な温度環境を維持しようとする。こうした大規模な移動を行う生物の数は、地上で観測されている温暖化の影響を小さくすら見せるかもしれない。

例えば、米国の北大西洋地域では近年、連邦政府が追跡してきた約70種の生物のうち少なくとも85%が、過去半世紀以上の基準と比較して、北方あるいはより深い場所、もしくはその両方に移動していた。そして、最も劇的な移動は過去10─15年に起きていた。

魚は常に、変わりゆく環境の変化に適応してきた。それは時に、人間に壊滅的影響を及ぼす。過去数世紀、ニシンが不漁に終わった年はノルウェーの漁村が飢餓に苦しんだことはその一例だろう。

だが、こんにち起きているのは、それとは全く異なる。科学者が化石燃料が主因だと考える海水温上昇の加速によって、漁業に永続的な変化が起きている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

英ロンドンで大規模デモ、反移民訴え 11万人参加

ビジネス

フィッチが仏国債格下げ、過去最低「Aプラス」 財政

ビジネス

中国、米の半導体貿易政策を調査 「差別的扱い」 通

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 10
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中