最新記事

人権問題

ベトナム女性人権活動家に初公判 不当拘束から3カ月、既に判決も用意済みか

2018年11月8日(木)20時50分
大塚智彦(PanAsiaNews)

2015年、拘束された人権活動家の解放を呼びかけていたフイン・トゥク・ヴィーさん。facebookページより

<エキゾチックな観光地、そして中国に代わる世界の工場として注目の国ベトナム。だがこの国には人権抑圧の一党独裁国家という顔もある>

ベトナムの著名なブロガーで、人権、特に女性や少数者の人権保護の分野で活躍し、8月から治安当局に身柄を拘束されているフイン・トゥク・ヴィーさん(33)に対する初公判が近く開かれる見通しとなった。裁判ではヴィーさんに対してまったく身に覚えのない「国旗および国章への侮辱罪」容疑が問われることになる、と支援団体や弁護士が明らかにした。

ヴィーさんは2018年8月9日、ベトナム中部高原ダクラク州ブオンホーにある自宅で地元ブオンホー警察によって突然身柄を拘束され、家宅捜索でヴィーさんの携帯電話やパソコン、カメラ、資料などが押収された。

参考記事:ベトナム女性人権活動家、突然の拘束 報道・言論の自由への道なお険しく

ヴィーさんは自らもその創設に関わったNPO団体「ベトナム女性の人権保護(VNWHR)」のホームページに「皆さんの協力でベトナムにおける暴力と拷問を阻止する声を挙げてほしい」と動画をアップ、拡散を求めていた。

以前からヴィーさんには警察当局から出頭要請や事情聴取要請が来ていたが、容疑が判然としないことからヴィーさんはそうした要請を一切拒否していたが、この動画が当局を刺激し、ヴィーさんは突然身柄を拘束されたとみられている。

身柄拘束時も警察は容疑を明らかにしておらず、その後も警察は拘束理由を一切公表しないままの状態が3カ月も続いていた。

身に覚えのない容疑で初公判へ

ところが11月に入ってヴィーさんの弁護士であるダン・ディン・マン氏や支援団体に入った情報で、近くヴィーさんに対する裁判が始められることが分かった。そして注目の容疑に関しては1999年制定の刑法276条にある「ベトナム国旗及び国章に対する侮辱罪」を検察側が適用する予定であることが判明したという。

マン弁護士らによると、検察側は2017年にヴィーさんの活動の様子を撮影した動画の背後に、ペンキが塗られたベトナム国旗が写りこんでいることを取り上げて「国旗侮辱罪」の適用を決めた、という。弁護士らは「ヴィーさんは背後にそのような国旗があることすら知らなかったはずである」として裁判では「全く身に覚えのない言いがかりによる冤罪であり当然無罪を主張する」としている。

当局側は、海外を含めてベトナム国内にも大きな発信力と影響力があるヴィーさんをとりあえず「口を封じる」ため8月に身柄を拘束したものの、有罪にできる容疑の立件に時間がかかり、3カ月が経過してなんとか苦肉の策で今回の「国旗侮辱罪」を適用することになったのでは、と人権団体の関係者は指摘する。

そして通常の裁判であれば無罪は確実だが、ベトナムではこうした民主活動家、人権活動家に対しては国家転覆容疑、社会混乱容疑などで禁固10年以上の有罪判決が言い渡されることが特に近年は多く、ヴィーさんの裁判でも重い求刑と判決がすでに用意されているとの見方が強い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国防長官、イランの濃縮ウラン移動情報認識せず ト

ビジネス

米AWSの生成AI責任者が退社、人材獲得競争激化

ワールド

イラン最高指導者、地下潜伏で暗殺を回避=イスラエル

ビジネス

FRB資本要件緩和、米大手銀に財務余力6兆ドル モ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉仕する」ポーズ...アルバム写真に「女性蔑視」批判
  • 3
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事実...ただの迷子ですら勝手に海外の養子に
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    単なる「スシ・ビール」を超えた...「賛否分かれる」…
  • 10
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中