最新記事

人権問題

ベトナム女性人権活動家に初公判 不当拘束から3カ月、既に判決も用意済みか

2018年11月8日(木)20時50分
大塚智彦(PanAsiaNews)


女性問題に関するヴィーさんの呼びかけ   Huỳnh Thục Vy / YouTube


親子2代の民主化運動、人権活動家

ヴィーさんは1992年から2002年まで10年間、自らの政治的著書を海外に発送した罪に問われて服役した政治犯ヒュン・ゴック・トゥアン氏の長女であり、親子2代に渡る民主化運動、人権保護の「筋金入り」の活動家でもある。

そうしたことも当局がヴィーさんをなんとしてでも裁判で有罪にして投獄させたい理由の一つといわれている。

弁護士などによると裁判ではヴィーさんが「意図的に国旗を汚した」とする証言が提出されるというが、この証言の真偽については当然のことながら疑わしいという。

ヴィーさんには夫のレ・カン・ドゥイ氏との間に2歳の娘がいる。このためもし裁判で有罪判決が確定しても、「36カ月以下の子供のいる母親はすぐに収監されない」というベトナムの法律に従い、ヴィーさんは娘が3歳になるまで執行猶予の身分となる可能性が高いという。しかし、その後収監されて刑期の間は服役することになる。

「リスク覚悟で弱者のために権力と対峙」

ヴィーさんは2017年に英BBC放送が選んだ「人の人権のために自らの生命を危険にさらしているアジアの5人の女性」の一人に選ばれたことがある。その際BBCに対しヴィーさんの家族が直面している一党独裁のベトナムの人権状況について語っている。

BBCによるとヴィーさんは「父の収監と私の家族に対する絶え間ない脅迫で疲労困憊の状態にある。しかし利己主義ではない利他主義に基づき、意味のある人生を送るには、リスクを覚悟で弱い立場の人々のために権力と対峙しなくてはならない」と語り、そして「今やるべきことをやらないと男女同権、平等な世の中は訪れない」とその固い決意を表明していた。

ヴィーさんの一番若い兄弟は政治的亡命を求めてタイに逃げており、こうしたヴィーさんの家族の状況から父トゥアンさんへの警察の監視と脅迫は現在も続いているという。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 2029年 火星の旅
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月20日号(5月13日発売)は「2029年 火星の旅」特集。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

クルド武装組織が解散決定、「歴史的使命完了」 トル

ワールド

印パ、停戦後の段階に向け軍事責任者が協議へ 開始遅

ワールド

米中、関税率を115%引き下げ・一部90日停止 ス

ビジネス

トランプ米大統領、薬価を59%引き下げると表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 3
    「隠れ糖分」による「うつ」に要注意...男性が女性よりも気を付けなくてはならない理由とは?
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 8
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 9
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 10
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中