最新記事

監視社会

顔を隠しても歩き方でばれる、中国の新しい監視ツールとは

Watch Your Step: China Rolls Out ‘Gait Recognition’

2018年11月7日(水)17時38分
デービッド・ブレナン

2017年10月に上海で開催されたパブリック・セーフティー(公共の安全)エキスポで顔認識システムを体験する見学者 Bobby Yip-REUTERS

<顔認証による国民の監視が行われている中国で、顔が見えなくても歩き方で人物を特定できる歩行認識テクノロジーが実用化した>

中国は最新の「歩行認識」ソフトウエアの導入を開始している。これは、体型や歩き方だけで人を識別することができる高度先端技術に基づく監視システムだ。

AP通信によれば、このソフトウエアは顔が映っていない映像からでも、被写体を確実に特定することができる。

中国共産党は人工知能とデータに基づくセキュリティ・インフラの構築を進めており、歩行認識ネットワークはすでに北京と上海の街で市民の監視に使われている。

この歩行認識システムを開発した中国ウェイトリックス社のファン・ヤンジェンCEOによれば、同社のカメラは50メートル離れた場所にいる顔の見えない人物を識別できるという。

「身元を割り出すのに、本人の協力は必要ない」と、ファンは言う。「わざと足をひきずったり、大股で歩いたり、前かがみになったりしても、歩行認識ソフトはだまされない。身体全体のすべての機能を分析しているからだ」

中国ではすでに顔認識テクノロジーが実用化されている。政府が全国に設置した顔認識技術に基づく監視ネットワークは、交通規則を無視して道路を横断する歩行者に罰金を課したり、危険運転を発見して罰したり、祭りやコンサートなど人が集まる場所で群衆のなかから犯罪者を発見するといった用途に使われている。

既存の監視システムを強化

中国共産党が構築した監視カメラシステムは非常に高度な機能を備えている。顔認識カメラはデータベースに接続されており、ソフトウエアで容疑者を特定し、その連絡先を割り出して罰金の支払いを命じるメッセージを送信することができる。

しかし、このシステムが正しく機能するためには、顔の高解像度のクローズアップ画像が必要になる。歩行認識テクノロジーは、容疑者の特定に必要な欠落部分を埋める役に立つだろう。

ウェイトリックスの歩行認識システムでは、動画のなかから人物の輪郭を抜き出し、歩き方のモデルを作成する。10分間の映像のスキャンに約10分かかるが、精度は94%だと、ファンは言う。リアルタイムで人を識別することはまだできないが、同社は先ごろ、さらなる開発を進める資金として1450万ドルを調達したという。

AP通信によれば、政情不安定な新疆ウイグル地区の行政当局は、歩行認識技術に関心を示している。

地域の宗教や伝統を抑圧し、中央への忠誠心を育てるという政府の方針のもと、新疆ウイグル地区に住むイスラム教徒は、すでに厳しい監視下におかれている。

当局は地元住民の管理を強化するために、さまざまなテクノロジーを駆使してきた。調査官が住民の情報に素早くアクセスできるように、家の外壁にQRコードを貼り付けるといった手法も使われている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

モルガンSも米利下げ予想、12月に0.25% 据え

ワールド

トランプ氏に「FIFA平和賞」、W杯抽選会で発表

ビジネス

9月PCE価格、前年比2.8%上昇・前月比0.3%

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談へ W杯
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 4
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 5
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 6
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中