最新記事

戦争リスクで読む国際情勢 世界7大火薬庫

【対談】米INF条約破棄、日本にはデメリットよりメリットが大きい!?

2018年11月7日(水)16時45分
ニューズウィーク日本版編集部

Newsweek Japan

<トランプ米大統領が中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄する意向を表明。その真意は何か、世界や日本にどう影響するのか。小泉悠・未来工学研究所特別研究員と村野将・岡崎研究所研究員が緊急対談で明かした、ここでしか聞けない話>

10月20日、ドナルド・トランプ米大統領は中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄する意向を表明した。

INF条約は1987年に米ソで調印。地上配備型の中距離(射程500~5500キロ)の弾道・巡航ミサイルが対象。開発や保有、配備を禁じている。

条約破棄を受けて、「トランプの無謀な軍拡路線」「秘密裏にINF開発を再開したロシアへの牽制」など、さまざまな臆測が飛び交っている。

その真意は何か、世界や日本にどう影響するのか――。本誌11月13日号の特集「戦争リスクで読む国際情勢 世界7大火薬庫」で現代の戦争リスクを分析した未来工学研究所の小泉悠特別研究員(ロシア軍事研究)と、岡崎研究所の村野将研究員(米国防政策)が集結。同号で展開した論点を元に、緊急対談を行った。

冒頭で村野氏は、「中距離核戦力」の全廃条約ながらも、実際には核兵器そのものではなく、通常弾頭を含むミサイル制限条約であることなど、条約の意味や歴史的背景を解説した。

その上で、アメリカの意図について、村野氏は「中国に対する抑止」を指摘する。条約を結んでいない中国は中距離ミサイルで、西太平洋における米軍の介入を阻止しようとしている。それに対して、米軍が周辺海域の沿岸から中距離ミサイルを配備できれば、中国の軍事行動を抑止できるなど、アジアの安全保障環境について分析をした。

一方、小泉氏は地政学に基づいたロシアの視点を紹介。太平洋と大西洋に囲まれたアメリカが中国やイランから離れているのに対して、陸続きのロシアは周辺国に置かれる中距離ミサイルに脆弱だという。

これに対処するため、2000年代半ばから条約違反のミサイルを開発していたと小泉氏。だがいくつかの軍事シナリオを想定しながら、2人は具体的な兵器や戦略の有効性をめぐり議論を展開していく。

そうしたなかで対中抑制のための条約破棄が、ロシアへの足かせを外してしまう恐れがあるとして、アメリカの戦略に疑問が浮上した。村野氏は、そうした疑問を解くカギとして、国防総省など米安全保障の地域担当者同士のすれ違いや、トランプ大統領などの政治的な思惑を分析した。

それでは日本にとっての影響はどうだろうか。小泉氏によれば、ロシアの足かせが外れるにしても、第一戦線は欧州、次に中国で、日本に対する影響は限定的。一方、中国にとって日本は第一戦線だ。日本にとってINF条約破棄でロシアの脅威増大というデメリットよりも、対中抑止の効果のほうが大きいようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米軍、ミサイル撃墜でイスラエルを支援=当局者

ワールド

ロシア大統領、イスラエル・イラン首脳と個別電話会談

ビジネス

米国株式市場=ダウ769ドル安、中東緊迫化で信頼感

ワールド

アングル:非常口付近が安全か、座席位置に関心高まる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 6
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 7
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 10
    救いがたいほど「時代錯誤」なロマンス映画...フロー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中