最新記事

日中関係

日本は中国との闘い方を知らない

2018年10月16日(火)13時10分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

2014年11月、 APECにおける日中両首脳 Kim Kyung-Hoon-REUTERS

米中関係が悪化すると日本にすり寄ってくるのは中国の常套手段だ。安倍総理の公式訪中を延ばして日本を焦らせ、日本側から会いたいと言わせることにも成功した。中国が日本を必要としている時に日本はどうすべきか?

米中関係が悪化すれば日本に「微笑む」中国の悪い癖

米中関係が悪化すれば日本にすり寄ってくるのは、国交正常化以来の中国の悪い癖だ。必ずと言っていいほど同じ行動を取る。

1989年6月4日の天安門事件によって中国は、アメリカを中心とする西側諸国によって厳しい経済封鎖を受けたのだが、それを最初に破ったのは日本だった。

鄧小平は直ちに部下を使って、日本の政財界に働きかけて日中友好の重要性を説き、微笑みかけてきた。

すると、同年7月に開催された先進国首脳会議(アルシュ・サミット)で日本の当時の宇野首相は「中国を孤立させるべきではない」と主張し、1991年には海部首相の時に円借款を再開し、西側諸国から背信行為として非難された。

さらに1992年4月、中共中央総書記になっていた江沢民は日中国交正常化20周年記念を口実に訪日し、既に病気療養中だった田中元首相を見舞って、天皇訪中を持ちかけている。このころ江沢民は、「天皇訪中が実現すれば、中国は二度と歴史問題を提起しない」とさえ言っている。

中国は「日本を陥落させて天皇訪中さえ実現させれば、他の西側諸国、特にアメリカの対中経済封鎖網は崩壊する」という戦略で動いていた。その戦略は見事に当たり、1992年10月に天皇訪中が実現すると、アメリカも直ちに対中経済封鎖を解除して、西側諸国はわれ先にと中国への投資を競うようになるのである。

事実、当時の中国の銭其シン外交部長は回顧録で、天皇訪中を「対中制裁を打破する上で積極的な作用を発揮した」と振り返っているし、また「日本は最も結束が弱く、天皇訪中は西側諸国の対中制裁の突破口となった」とも言っている。

こうして、天皇訪中のときには、アメリカに次ぐ世界2位のGDP(国内総生産)を誇っていた日本は、2010年には中国に追い越され、今では中国の3分の1という体たらくだ。

今回も、トランプ大統領による厳しい対中強硬策に追い込まれた習近平国家主席は、安倍首相に「頬笑み」を投げかけることによって危機を回避し、日本をうまくコントロールしようとしているのである。

焦らし戦術

おまけに中国は「相手を焦らす」をいう戦術を頻繁に使う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米人員削減、11月は前月比53%減 新規採用は低迷

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始 27

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中