最新記事

日中関係

日本は中国との闘い方を知らない

2018年10月16日(火)13時10分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

習近平が国家主席になってからは一度も訪日したことがないのも、非常に戦術的だ。日本側の首相を、「世界第二の経済大国になった中国のリーダーを訪日させることに成功すれば、外交に成功した」と勘違いさせる心理に追い込んでいくことができると計算している。そのためには「焦らせば焦らすほど」効果がある。相手が「会うことを承諾してくれるのなら、どんな条件でも受け入れましょう」と思うようになる心理に持っていく。

計算通りに、安倍首相は、最近では第三国における事業なら、日本も協力する用意があるとして、「一帯一路」経済構想に協力する方向で動き始めた。

日中両国首脳のシャトル外交を取り付けたいために、安倍政権は多くの自民党幹部や閣僚あるいは経済界などを動かして水面下で中国側関係者と交渉してきた。その熱心さは中国でも話題になっている。中国政府関係者は「対日外交戦略で中国はまたもや大成功を収めている」と赤い舌を出して、ほくそ笑んでいる。

天皇訪中のとき同様、日本はこの交渉プロセスにおいて、すでに敗北していると言わざるを得ない。

なぜトランプ大統領は対中強硬策を取り始めたのか

昨年11月8日に訪中して、あれだけ習近平国家主席との親密ぶりを世界に振りまいたトランプ大統領が、なぜ突然、激しい対中強硬策に出始めたのか?

その一つは昨年10月末に米国防総省アジア太平洋担当の次官補にランドール・シュライバー(愛称:ランディ)氏が任命されたからだ。

ランディは大の嫌中派で完全な親台湾派。この時点でトランプ政権誕生時における大の親中派のキッシンジャー元国務長官の影響下からトランプは脱しようとしていると言っていいだろう。数多くの閣僚交代の原因の一つはそこにある。

米国防総省は12月末に「国家安全保障戦略」を、そして今年1月には「2018年米国国家防衛戦略」を発表して、非常に厳しい対中強硬策を打ち出している。今年3月には、米台高級官僚の相互訪問を促進する「台湾旅行法」も成立させ中国との対立が鮮明となった。

ランディ任命とほぼ同時進行で、トランプ大統領は「宇宙政策大統領令」を発布している(2017年12月11日)。これは、あくまでも国際宇宙ステーションに関するオバマ政権の決定に対抗する「アンチ・オバマ」戦略が出発点だった。しかし、その途上で習近平政権の「中国製造2025」が持つ恐ろしさに気が付いたものと判断される。

トランプ政権は突如、中国に高関税をかけ始めて、いわゆる米中貿易戦争が始まった。

「中国製造2025」では、2025年までにハイテク製品のキーパーツである半導体の70%を中国製造(メイド・イン・チャイナ)として自給自足することが盛り込まれているだけでなく、宇宙に関しては中国が実行支配する戦略が潜んでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、ウクライナに戦闘機「グリペン」輸出へ

ワールド

イスラエル首相、ガザでのトルコ治安部隊関与に反対示

ビジネス

メタ、AI部門で約600人削減を計画=報道

ワールド

イスラエル議会、ヨルダン川西岸併合に向けた法案を承
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 9
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中