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宇宙開発

ソユーズ打ち上げ失敗、有人ロケットをロシアに依存してきた各国の宇宙計画のあやうさ

2018年10月17日(水)19時00分
鳥嶋真也

10月11日に行われたソユーズの打ち上げ。この後トラブルにより失敗した Rosaviation/REUTER

ロシア国営宇宙企業「ロスコスモス」は2018年10月11日、2人の宇宙飛行士を乗せた「ソユーズMS-10」宇宙船を、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げた。しかし、宇宙船を載せたロケットに不具合が発生。宇宙船はロケットから離脱し、緊急着陸した。2人に大きな怪我はなかった(参考)。

ロケットの打ち上げ失敗という大事故にもかかわらず、宇宙飛行士の命が救われたことは、ソユーズの安全性の高さを示している。しかし一方で、そもそも事故が起きた原因、背景を取り除かない限り、その安全性もいつか崩壊しかねない。

事故の顛末

ソユーズMS-10宇宙船には、ロシアのアレクセイ・オフチニン宇宙飛行士と、米国のニック・ヘイグ宇宙飛行士の2人が搭乗していた。両名は国際宇宙ステーション(ISS)に向かい、約半年間の宇宙滞在を行う予定だった。

宇宙船はロケットに搭載され、日本時間11日17時40分(現地時間11日14時40分)に、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地から打ち上げられた。しかし、燃料を使い切った機体を分離する際に何らかのトラブルが発生した。

それを受け、宇宙船に装備されている緊急脱出装置が起動し、ソユーズMS-10はロケットから離脱。パラシュートを展開して降下し、カザフスタン内の草原地帯に着陸した。捜索救助隊が現場へ急行し、オフチニン、ヘイグ両宇宙飛行士を救出。2人に怪我はなく、健康状態も良好だという。

10月14日現在、事故の詳細や原因などはまだ不明だが、ロスコスモスのドミトリー・ロゴージン社長は、この事故を受けて、原因究明のための国家委員会を立ち上げたと発表している(参考)。

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ソユーズ・ロケットにトラブルが発生した瞬間。部品、破片などが散らばっている様子が写っている (C) NASA/Bill Ingalls

ロケットの打ち上げ失敗という大事故にもかかわらず、宇宙飛行士の命が救われたことは、ソユーズ宇宙船の安全性がいかに高いかを示している。

ソユーズには、打ち上げのどのタイミングで事故が起きても機能する脱出装置が搭載されている。過去、ソユーズは1975年と1983年にも打ち上げで事故を起こしているが、いずれのケースでも脱出装置が機能したことで、宇宙飛行士の命は救われている。今回を含めた実績から見るに、安全性の高さは折り紙付きといってよい。

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ソユーズから緊急脱出した宇宙飛行士のカプセルは、カザフスタンに着陸した Shamil Zhumatov-REUTERS


今回の事故が示唆するロシア宇宙開発の弱体化

しかし、そもそも脱出装置が必要な事態が起こったことは、深刻な問題として受け止められるべきだろう。

今回の事故の詳細はまだ明らかになっていないが、悪天候などの外的要因説はすでに取り除かれており、原因は技術的なところにあると見られている。ロケットの組み立て、部品の製造、品質管理など、どの時点でどういう見落としがあったかが焦点となろう。

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