宿敵イスラエルがシリア人負傷者を救う「善き隣人作戦」
Best Frenemies
ユダヤ人も援助を支持
イスラエル軍は手始めに個々の活動家や支援ワーカーと手を組み、その後シリアの穏健な反政府派と連携するようになった。シリア政府軍の元兵士らが結成した「自由シリア軍」もその1つ。「われわれは彼らに人道支援を約束した。その代わり反政府運動がテロ組織に乗っ取られないようにしてくれ、と」
13年以降、イスラエルの国営病院で治療を受けたシリア人負傷者は5000人を超える。加えて国境地帯でイスラエル軍が運営する野戦病院などで、少なくとも7000人が治療を受けた。イスラエル当局は、17年だけで3100万ドル余りの対シリア支援を行ったと発表している。
ガリラヤ医療センターではこれまでに2500人のシリア人を治療してきたが、うち1000人はこの1年に運び込まれた人たちだ。イスラエルで手厚い看護を受けたという話が口コミで広がり、シリア人患者がどっと押し寄せるようになったと、外科医のエヤル・セラは話す。セラが治療した子供の母親は、「わが家では、イスラエルという言葉は禁句でした」と打ち明けたという。
イスラエルの多くの病院と同様、ガリラヤ医療センターでもスタッフの半数はユダヤ人、半数はアラブ人だ。「ユダヤ人とアラブ人が仲良く一緒に働いているのを見て、シリア人の患者は驚き、イスラエルへの見方を変える」と、セラは言う。
このセンターでは、退院するシリア人には帰国後に配慮して、ヘブライ語ではなくアラビア語で書かれた医療記録を渡す。負傷の程度によって、イスラエル人患者よりシリア人患者の治療を優先することもよくある。
当初「善き隣人作戦」には、シリア人以上にイスラエル軍関係者のほうが懐疑的だった。「既存の枠から外れたアイデアはなかなか受け入れられない」と、モレノは言う。「軍隊は愛と平和の組織ではないから」
セラも最初は抵抗を感じたが、今ではシリア人患者の受け入れを「ごく当然のこと」と思っている。イスラエルの世論も同様だ。イスラエル民主主義研究所が7月に実施した世論調査では、イスラエルのユダヤ人の78%がシリア人への人道支援を支持。ただし、シリア難民の受け入れを拒否する政府の姿勢を支持する人も80%に上った。シリア人患者は治療が終わりしだい出国を迫られる。
受けた恩義は忘れない
イスラエルの援助はただの善行ではなく、戦火の飛び火を防ぐ現実的な戦略でもある。この戦略は奏功し、イスラエル兵はシリアの反政府派から1発の銃弾も浴びていない。