宿敵イスラエルがシリア人負傷者を救う「善き隣人作戦」
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ここ数カ月、シリア南部の国境地帯でロシア空軍の支援を受けた政府軍の猛攻が続くなか、住民たちは仇敵イスラエルを頼りにするようになった。シリア内戦の勃発地ダルアーが政府軍の手に落ちると、民間人ざっと30万人がヨルダン、イスラエルとの国境を目指し、そのほかにも多数のシリア人がイスラエルとの国境のシリア側で野営生活を始めた。
「今ではシリア人は本当の敵を知っている。敵はイスラエルではなく、アサドであり、イランとロシアだ」と、シリアの反政府活動家ムサ・アブ・アルバラアは言う。
7月17日、200人余りのシリア人が国境のフェンス沿いにデモ行進を行った。政府軍の攻撃から自分たちを守ってほしいとイスラエルに訴えるためだ。
国境地帯でシリア人の大規模なデモが起きたのは、11年5月以来のこと。前回は1000人の参加者のうち100人がフェンスを越えてイスラエル兵を襲撃し、シリア人1人が死亡、イスラエル兵1人が投石で重傷を負った。
7年の歳月を挟んで起きた2つのデモの違いは、人々の意識の変化を物語っている。「私たちはイスラエルの攻撃からではなく、アサドとロシアの攻撃から逃れるために家を捨てる羽目になった」と、シリア人活動家モハメド・シャラフは言う。「今まで悪玉だと教え込まれてきたイスラエルが私たちを助けてくれた。だからロシアの空爆に脅かされる今、イスラエルに保護を求めているのだ」
シリアの反政府派の一部には、イスラエル軍がシリア政府軍を撃退してくれると期待する向きまであった。
「アサド政権にはロシアに加えてイランも付いているから、イスラエルは政権側がこの地域を支配することを警戒し、反政府派を支援してくれるだろうと人々は考えた」と、難民支援に取り組むマルティニは説明する。「もちろん、そんな展開にはならず、失望感が広がった」
それでも「以前と比べれば、人々の意識は大きく変わった」と、マルティニは言う。「みんなイスラエルに助けてもらったことを忘れていない」
ガリラヤ医療センターで退院の日を待つハニは、「平和になってシリア人とイスラエル人が互いの国を行き来できるようになるといい」と話す。「私もまたこの国に来たい。難民としてではなく、旅行者として」
<本誌2018年10月09日号掲載>

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