最新記事

欧州

独メルケル首相の引退はEU改革に吉か凶か?

2018年10月31日(水)08時43分

メルケル氏は、ユーロ圏の財政分野にある「南北格差」に関しては周縁国への支援に否定的なドイツ国内のタカ派をなだめる上で大きな役割を果たしてきた。また自身が旧ソ連圏の東ドイツで暮らした経験を踏まえ、最近ではEU補助金や人権問題を巡る「東西対立」で橋渡しに携わっている。

この外交官は「中東欧にとっては、共産党独裁政治の国で生活することの意味を本当に知っているドイツの首相を味方につけていたのはとてつもなく有利な要素だった。その大事さは、失った後でしか分からないだろう」としみじみと語った。

グッテンバーグ氏は、ドイツはこの先も全般的な親EU姿勢やブレグジットに対するEUの既存の方針を守り、イタリアが試みているEUの財政ルール破壊に反対すると予想しつつも、欧州統合の進化に向けた「建設的な」動きはしばらくお休みになるとみている。

一方でシティバンクのエコノミストチームは、ドイツの地方選挙で緑の党が躍進したことがユーロ圏改革にとって追い風となり、フランスで難局に立ち向かうために中道勢力が広範な支持を集めてマクロン氏を大統領の座につかせたように、ドイツでも同じような動きを呼び起こす可能性があるとの見方を示した。

「親EUの緑の党の台頭は、少なくともユーロ圏にとって大きなプラスになり得る」という。

欧州緑の党のフィリップ・ランベール共同代表は「メルケル氏がCDUの統制力を失うとすれば、それはドイツ国内で欧州統合のアイデア自体が失われることになる」と警戒する。それでも、メルケル氏がしがらみから解き放たれ、国民に必ずしもドイツのためにならない改革を受け入れるよう力を注げるようになった点は希望が持てるとの考えだ。

INGジャーマニーのエコノミスト、カルステン・ブゼスキ氏も同意見で、メルケル氏は政治的な遺産(レガシー)を残すための自由を得たと指摘し、ドイツ経済と通貨同盟の改革により大胆に踏み込んでいく可能性があると付け加えた。

シンクタンクのフレンズ・オブ・ヨーロッパのジャイルズ・メリット会長は、メルケル氏の下でドイツは財政黒字を抑制できず、ユーロに緊張をもたらしたと指摘。「『メルケル後』の(政治の)不安定化や混乱を懸念するのは分かるが、近視眼的だ。メルケル氏が退場するという見通しは、ドイツの有権者を自分たちにとって短期的利益より大きな利益、つまり欧州統合へと回帰させる触媒となると期待できる」と述べた。

(Alastair Macdonald記者)



[ブリュッセル 29日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
アメリカや中東、アジア、ヨーロッパなど世界の動きから世界経済、キャリア、テック&サイエンス、for Womanの最新トピックまで、ウィークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

MAGAZINE

特集:残念なリベラルの処方箋

2019-7・ 2号(6/25発売)

日本でもアメリカでも存在感を示せない「リベラル」 対抗軸として政権担当能力を示す方法は?

人気ランキング

  • 1

    世界最大級のネコ、体重320キロのアポロを見て単純に喜んではいけない

  • 2

    犬を飼うかどうかは遺伝子が影響を与えている

  • 3

    地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

  • 4

    フェイスブックのコンテンツ監視員の職場は「搾取工…

  • 5

    未婚女性が結婚相手の男性に求める年収とは......理…

  • 6

    生きるために自分の足を噛みちぎった犬ルークの強さ

  • 7

    うろたえる韓国、北朝鮮の非核化交渉で脇役に

  • 8

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、…

  • 9

    若年層の頭蓋骨にツノ状の隆起ができていた......そ…

  • 10

    トランプの対中貿易戦争に巻き込まれた「勝ち組」と…

  • 1

    世界最大級のネコ、体重320キロのアポロを見て単純に喜んではいけない

  • 2

    若年層の頭蓋骨にツノ状の隆起ができていた......その理由は?

  • 3

    テスラの半自動運転システムで居眠りしたまま高速を50キロメートル走行

  • 4

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、…

  • 5

    走る車の中から子猫を投げ捨て!相次ぐ蛮行に怒りの…

  • 6

    自撮りヌードでイランを挑発するキム・カーダシアン

  • 7

    アメリカ心理学会「体罰反対決議」の本気度──親の体…

  • 8

    地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

  • 9

    イランの無人機撃墜がアメリカにとって重大な理由

  • 10

    「何か来るにゃ...」 大阪地震の瞬間の猫動画に海外…

  • 1

    世界最大級のネコ、体重320キロのアポロを見て単純に喜んではいけない

  • 2

    サーモンを愛する「寿司男」から1.7mのサナダムシ発見

  • 3

    台湾のビキニ・ハイカー、山で凍死

  • 4

    マイナス40度でミニスカ女子大生の脚はこうなった

  • 5

    現代だからこそ! 5歳で迷子になった女性が13年経て…

  • 6

    プラスチック製「人工子宮」でヒツジの赤ちゃんが正…

  • 7

    脳腫瘍と思って頭を開けたらサナダムシだった!

  • 8

    タピオカミルクティー飲み過ぎで病院!? 中国の14…

  • 9

    アメリカの衛星が捉えた金正恩「深刻な事態」の証拠…

  • 10

    地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
ニューズウィーク日本版編集部員ほか求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2019年6月
  • 2019年5月
  • 2019年4月
  • 2019年3月
  • 2019年2月
  • 2019年1月