最新記事

奴隷

人口の5人に1人が奴隷の国モーリタニアに強制送還される米移民が急増

Deportations Increase to Country Where Slavery Persists

2018年10月17日(水)20時47分
ジャクブ・レワンドウスキ

オバマ政権下の2015年には4人だったモーリタニアへの強制送還が、トランプ政権下の今年はすでに83人以上 Jonathan Ernst-REUTERS

<トランプは表向きには人身売買と戦うと言いながら、奴隷大国モーリタニアに不法移民を強制送還している>

アメリカにいる不法移民の黒人男性4人が今週、多くの国民が今も奴隷状態にあるアフリカ北西部モーリタニアに強制送還されようとしている。しかも、強制送還の責任者であるドナルド・トランプ米大統領はつい先週、人身取引の監視・取り締まりのための「省庁間タスクフォース年次総会」で取り締まり強化をアピールしたばかりで、二枚舌も甚だしい。

「われわれは人身売買という非人道的な虐待の被害者を保護するため、仲介業者を標的にした取り締まりを強化している」と、トランプは総会で言った。

「アメリカは性奴隷や強制労働に手を貸す外国政府に圧力をかけている」し、米移民・関税執行局(ICE)の「勇敢な英雄たち」は昨年1600人以上の仲介業者を逮捕したと言った。

だが一方で、トランプ政権になってから、多くの国民がいまだに奴隷状態に置かれている西アフリカのモーリタニアに不法移民が強制送還されるケースが急増している。移民の権利擁護団体「アメリカズ・ボイス」によれば、バラク・オバマ前米政権下の2015年にモーリタニアに強制送還された不法移民はわずか4人だったのに対し、今年はこれまでに83人以上に膨らんだ。

「腹が立つが、これがトランプ政権のやり方だ。カメラの前では移民に寄り添うように見せかけて、実際は真逆のことをする。驚きはしないが、苛立ちが募る」と、オハイオ州を拠点にする移民の権利擁護団体「イミグラント・アライアンス・オハイオ」のディレクターを務めるライン・トラモンテは米紙USAトゥデイに語った。

世界最悪の現代奴隷

CIA(米中央情報局)によれば、モーリタニアは奴隷になる人の割合が世界で最も高く、人口の20%に上る。米国務省が公表した報告書も、同国のことを「人身売買をなくすための最低限の基準を満たしておらず、目立った努力もしていない」と批判。「モーリタニアは、男女や子供たちが強制労働や性的搾取を強いられる人身取引の温床になっている国」とした。

モーリタニアは1981年に世界で最も遅く奴隷制度を廃止したものの、奴隷の所有が刑事罰の対象になったのは2007年になってから。搾取する側か、搾取される側かは出身民族によって決まる。搾取する側はアラブ人とベルベル人の混血で人口の30%を占めるベイダンと呼ばれる民族(ホワイト・ムーア人)で、もっと肌の色が黒いハラティンと呼ばれる(ブラック・ムーア人など)少数派の民族を奴隷や差別の標的にする。同国のモハメド・ウルド・アブデル・アジズ大統領は、政治や経済で特権階級を占めるベイダンの血筋だ。

「モーリタニア政府は見て見ぬふりをしている。自分たちが裕福な民族の出身で、かつて奴隷を所有していたからだ。昔も今も彼らが国を支配している」と、英人権団体「反奴隷インターナショナル」のジャクブ・ソビク報道官は英紙テレグラフに語った。

見て見ぬふりをしているのはトランプ政権も同じだ。

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

パラマウント、ワーナーに敵対的買収提案 1株当たり

ワールド

FRB議長人事、大統領には良い選択肢が複数ある=米

ワールド

トランプ大統領、AI関連規則一本化へ 今週にも大統

ビジネス

インフレ上振れにECBは留意を、金利変更は不要=ス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中