最新記事

米共和党

それでも「無能」トランプが解任されない理由

The Incapacitated President

2018年9月19日(水)17時45分
ジャメル・ブイエ(スレート誌政治担当記者)

その理由は恐ろしく利己的だ。トランプは、大統領としての職務をまともに遂行する能力がないかもしれない。しかし共和党が議会とホワイトハウスを握っている以上、現在のワシントンは規制を骨抜きにし、最高裁判事のバランスを今後長きにわたり保守に傾けるといった、共和党の重要アジェンダを達成できる環境が存在するというのだ。

トランプを厳しく批判するフレークでさえ、保守のイデオロギーに忠実なあまり、トランプが指名した2人目の最高裁判事候補ブレット・キャバノーを承認する可能性が高い(キャバノーは、大統領の不法行為は法的責任を問われないとしている)。

憲法も想定外の出来事

ウィルソンやニクソンとトランプとの違いは、トランプが公然と大統領職をおとしめていることだけでなく、議会多数派が大統領に対して行動を起こさず、結果的に大統領の「共犯者」になっていることにある。

能力不足の大統領をフォローする側近がいるという意味では、トランプもウィルソンやニクソンと同じだ。しかし党のイデオロギーを実現するために、他のあらゆること(大統領職を含む)を犠牲にする政治勢力に囲まれているのはトランプだけだ。

憲法修正第25条は、大統領が職務遂行不能に陥った場合や、不法行為に手を染めた場合に、独立した議会や準独立行政機関の人間が危機に終止符を打つ手続きを定めている。そこには、これらの当事者が政治秩序を維持する義務を忠実に果たすという信頼が存在する。

アメリカ建国の父の1人であるアレグザンダー・ハミルトンは、場当たり的な政争とは距離を置き、不偏不党の判断ができる(はずの)上院は、罷免手続きの担い手として適任だと考えた。ところが現代の上院は、ハミルトンが想定した機能を果たしていない。それは二大政党の1つが、大統領の暴走に無関心を装っているからだ。

いかにトランプが無能でも、共和党が議会の多数派を握っている限り、アメリカ政治の機能不全は続くだろう。

<本誌2018年9月18日号掲載>

© 2018, Slate

[2018年9月18日号掲載]

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏がウォール街トップと夕食会、生活費高騰や

ワールド

米、政府閉鎖中に模範勤務のTSA職員に1万ドルのボ

ビジネス

米国株式市場=急落、エヌビディアなど安い 利下げ観

ワールド

ゼレンスキー氏、南東部前線視察 軍は国産ミサイル「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中