最新記事

韓国

ソメイヨシノ韓国起源説に終止符? 日本文化の起源巡る韓国世論に変化の兆しか 

2018年9月19日(水)11時35分
内村コースケ(フォトジャーナリスト)

自説撤回が学者としての良心から来るものなのか、韓国世論の圧力に屈した結果なのかは分からないが、公共放送のインタビューという場で主張を180度変えたのは極めて不自然に映る。また、韓国文化庁という国の機関が韓国起源説を正式に採用していることからも、ソメイヨシノの起源については、「事実」を語ることが、韓国ではタブーとなってきたことが伺える。

そのため、今回報じられた韓国・明知大学と嘉泉大学の合同研究チームによる解析結果は、それ自体はそれほど目新しいものではないが、大手メディアの中央日報が「今回の研究結果で論争自体が無意味になった」と客観的事実と 「敗北」を潔く認めているのは、極めて異例な論調だと言えよう。

「自己欺瞞はもう終わった」

そもそも、なぜ、韓国世論はこれほどまでにソメイヨシノの起源にこだわるのか? 当該報道の2日後、中央日報英字版『コリア中央デイリー』のムン・ソヨン文化局長が寄せたコラムにヒントを見つけた。「この学説は、韓国人が桜を楽しみながら『日帝の残滓ではないだろうか』という民族主義的罪責感を都合よく軽減してくれた。桜祭りが韓国の代表的な春の祭りになり、関連商品が数えきれないほど登場した中、論争が起こるたびに民族主義的な防壁として出てくるのが『済州原産地説』だった」と同氏は書く。

ムン氏は続ける。「しかしその防御論理はおかしかった。花の原産地とその花を楽しむ文化の発生地は別のものだからだ。たとえ世界の桜の起源が済州だとしても、私たちの祖先が桜を楽しんだ例は過去の詩や絵には見られない。(中略)すなわち、原産地がどこであれ、今日の韓国で桜を楽しむ風習は私たちの伝統でなく、日帝強占期を経て日本から入ってきたということだ」。同氏はそのうえで、「 「ソメイヨシノ済州原産地説」を主張して私たちの伝統でない桜祭りをいかがわしい民族主義で包装する自己欺まんはもう終わった」と言い切っている。

日韓併合時代に端を発する反日思想の背景には、同コラムで「民族主義的罪責感」と表現される一種のコンプレックスや恨みの感情だけでなく、慰安婦問題などを見ていると、敗戦国日本の弱い立場に付け込んで相対的に自国の地位を高めようという意図もあるように感じられる。

実際のところ、ソメイヨシノ以外にも数え切れないほどの韓国起源説が主張されているが、そのほとんどが日本をターゲットにしている。その内訳は「剣道」「茶道」「神社」「日本語」「サッカーファンのごみ拾い」「天皇」「熊本城」など、文化、スポーツ、人物、歴史とあらゆる分野に及ぶ。これに比べて、文化的なつながりが深い隣国中国を含め、日本以外の国に対する起源主張は極めて少ない。

儒教文化の影響が強い韓国では、客観的事実よりも「面子」や「道徳」が優先される傾向にあるという見方もある。そうした文化的背景も、「我が国は日本よりも優れているはずだ」という願望の産物である起源説が、いつの間にか事実として一人歩きすることにつながっているのかもしれない。しかし、今回のソメイヨシノの起源を巡る報道は、「願望」よりも「客観的事実」に寄り添った我々にも馴染みやすい論調だ。反日的な世論、ひいては韓国の文化に、変化が起きている兆候なのかもしれない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中