最新記事

シリア

シリア内戦:イドリブ虐殺に備えるシリア、ロシア、イラン。アメリカは?

Trump Backs Indefinite U.S. Military Presence in Syria

2018年9月11日(火)17時30分
クリスティナ・マザ

シリアの反政府派の最後の拠点イドリブでは、政府軍の総攻撃に対する備えが進む。男の子が被っているのは、ビニール袋と紙コップで作った即製のガスマスク(9月3日) Khalil Ashawi-REUTERS

<停戦を模索したロシア、イラン、トルコの3カ国首脳協議も物別れに終わり、シリアのアサド政権は着々と反体制派最後の拠点攻撃の準備を進めている>

報道によると、シリアからの米軍早期撤退を主張してきたアメリカのドナルド・トランプ大統領が、駐留を無期限で延長する意向を明らかにした。イランの代理勢力をシリアから追い出すためだ。トランプのこの決断は、イラン内戦に深く関わるロシア、イラン、トルコ3カ国の首脳が9月7日、シリアでの停戦を協議しているときに発表された(停戦協議は物別れに終わった)。

米国務省当局がワシントン・ポストに語ったところによると、トランプが駐留延長を決めたのは、ロシアが本気でイランを排除してくれるのかどうか、わからないからだという。シリアの隣には、アメリカの同盟国でシリアの仇敵のイスラエルがある。だからアメリカは、ロシアの力を借りて何とか国境付近からイランを撤退させようとしてきた。報道では、ロシア政府もこれに同意していたと示唆されている。

国家安全保障問題担当の米大統領補佐官ジョン・ボルトンは、8月にイスラエルを訪問した際、イランがシリアから撤退すればロシアも喜ぶだろうと語った。しかし、ロシアのウラジミール・プーチン大統領はそうした考えを公式には認めておらず、むしろ、現地ではイランと連携している。3カ国首脳協議でも、セルゲイ・ラブロフ外相とセルゲイ・ショイグ国防相を伴って表れた。

目下の焦点は、シリア反体制派の最後の拠点であるシリア北西部のイドリブ県に総攻撃をかけるかどうかだ。シリア政府のアサド政権はそのつもりだ。そのアサドを支援するロシアとイランは、シリア政策に関して重大な過ちを犯そうとしている、とトランプは9月3日付けのツイッターで言った。イドリブ県で人道危機を引き起こす寸前である、と。

報道によれば、シリアのバシャル・アサド大統領は、今後数週間以内に大規模な攻撃に出る可能性が高いとされている。

人道危機を訴えた理由は?

トランプは以下のようにツイートした。「シリアのバシャル・アサド大統領はイドリブ県に無謀な攻撃を行ってはならない。ロシアとイランは、人類の悲劇となりうるこの事態に加担する人道上の重大な過ちを犯そうとしている。何十万人もの犠牲者が出るかもしれない。そんな事態を起こしてはならない!」

トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は、この攻撃に反対している。トルコに数百万人もの難民が流れ込む可能性があるからだ。イドリブへの攻撃が始まれば、新たに100万人の難民がトルコへ逃れるだろうと、ある専門家は話す。一方、イランのハッサン・ロウハニ大統領は、IS(自称イスラム国)を一掃し、原理主義者をひとり残らず打ち負かすまでは、シリア攻撃を続けなくてはならないと主張している。

イラン勢力がいなくなるまでシリアに残るというのは、ひたすらIS掃討を叫んできた米政府の立場からは大きく逸脱するものだ。だがマイク・ポンペオ国務長官は以前、アメリカが5月に離脱したイラン核合意に関する再交渉を進めるための条件の一つとして、イランのシリアからの撤退を挙げていた。

シリアには現在、2000人強のアメリカ軍が駐留している。

(翻訳:ガリレオ)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国財政相会見、刺激策の「規模」不明 市場の期待は

ビジネス

情報BOX:中国、景気底上げへ積極財政出動 財政相

ビジネス

中国9月CPI減速、PPIは半年ぶり下落率 デフレ

ワールド

イスラエル、イラン攻撃目標を軍・エネ施設に絞り込み
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米経済のリアル
特集:米経済のリアル
2024年10月15日号(10/ 8発売)

経済指標は良好だが、猛烈な物価上昇に苦しむ多くのアメリカ国民にその実感はない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『シビル・ウォー』のテーマはアメリカの分断だと思っていたが......
  • 2
    冷たすぎる受け答えに取材者も困惑...アン・ハサウェイ、批判殺到したインタビューを反省し謝罪
  • 3
    ビタミンD、マルチビタミン、マグネシウム...サプリメント「3つの神話」の噓を暴く
  • 4
    東京に逃げ、ホームレスになった親子。母は時々デパ…
  • 5
    性的人身売買で逮捕のショーン・コムズ...ジャスティ…
  • 6
    アルツハイマー病治療に新たな可能性...抗がん剤投与…
  • 7
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 8
    メーガン妃とヘンリー王子は「別々に活動」?...久し…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 1
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 2
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた「まさかのもの」とは?
  • 3
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明かす意外な死の真相
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 5
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決…
  • 6
    「メーガン妃のスタッフいじめ」を最初に報じたイギ…
  • 7
    ウクライナ軍がミサイル基地にもなる黒海の石油施設…
  • 8
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
  • 9
    東京に逃げ、ホームレスになった親子。母は時々デパ…
  • 10
    戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイス…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はどこに
  • 4
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座…
  • 5
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 6
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 7
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 8
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
  • 9
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中