最新記事

地震

リゾートの島が一転、数千人が薄手のテント暮らしに インドネシア地震の被災地は今

2018年8月9日(木)17時55分

インドネシア、ロンボク島で8日、テントで避難生活を送る住人(2018年 ロイター/Beawiharta)

剥がれ落ちてくるタイルや割れたガラスをよけて自宅から逃げ出した直後、インドネシアの農家ハジ・ルスランさんとその家族が住んでいた家は倒壊した。ルスランさんらは、家の反対側からその様子を見つめていた。

ルスランさんと家族は無事だったが、5日発生したマグニチュード(M)6.9の地震により、地区では住民40人が死亡した。政府の支援が届くのを待っているルスランさんらには、生き延びて幸運だったと感じる余裕はない。

「私たちが生きているということが一番大事だ。でも希望もなく、力も残されていない」と、ルスランさんは話す。ルスランさんの妻は、崩壊した自宅跡で、床に敷くマットや枕、台所用品など、使えるものがないか探していた。

130人以上が死亡し、滞在中だった観光客数千人が島外に脱出した5日の地震は、リゾート地ロンボク島を襲った過去最大の地震だった。その1週間前には、M6・4の地震が同じ場所で発生し、17人が死亡したばかりだった。

トウモロコシ畑や水田に囲まれたGumantarの集落の住人は、薬やコメ、インスタント麺や水などを運ぶのに、島内に住む家族や住人の善意、ボランティアに頼っている状況だ。

ロンボク島北部の農地や丘陵地に住む数千人の住民は、薄手の防水テントに避難している。巨大地震のショックに加えて余震が続いているため、屋内では落ち着いて眠れないのだ。また、戻る家をなくした人も多い。

震源地から車で東に30分ほどの位置にあるGumantarの集落をくねくねと走る一車線の道路の両側は、崩壊した家や集会所、学校などのがれきでいっぱいになっていた。

電柱が倒壊したため村人は電気が使えなくなり、緊急対応チームや親戚に連絡を取ろうにも、電波がなくて携帯電話は利用できない状態だ。

地面からは水道管が露出し、地震でできた亀裂から水がもれ出ていた。

道路わきのテントには女性たちが座り、インスタント麺や水の割り当てを行っていた。

運動場は折れ曲がった金属類でいっぱいになっており、授業がなくなった子どもたちは、草原で追いかけっこをしたりニワトリと遊んだりしている。

夜になると、携帯用発電機で数個の電球に明かりがともり、数百人の避難者がその周辺に集まる。

住民は、隣人や家族が今回の地震で死んだと話すが、その声にはあまり感情は感じられない。まだショック状態にある人が多いのだ。

「夢を見ているみたいだ。こんなことが起きて、すべてがなくなったなんて信じられない」と、スニアティさんは話す。「コミュニティーはまだ地震や余震の痛みを感じているところだ」

ルスランさんのように、素手でがれきを片付けようとしている住民もいる。ハンマーやロープを使って一部倒壊した壁を倒し、復興工事ができる状態にしようとしている人もいる。

家を再建して生活を取り戻すには、さらに支援が必要だと話す人が多い。

「将来どうやり直せばいいのか分からない。誰かに助けてほしい」と、ルスランさんは話した。

(翻訳:山口香子 編集:伊藤典子)

Kanupriya Kapoor

[Gumantar (インドネシア、ロンボク島) 8日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

FRB議長に選ばれなくても現職にとどまる=米NEC

ビジネス

米小売業の求人、10月は前年比16%減 年末商戦の

ワールド

ウクライナ・エネ相が辞任、司法相は職務停止 大規模

ワールド

ウクライナ・エネ相が辞任、司法相は職務停止 大規模
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 3
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働力を無駄遣いする不思議の国ニッポン
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中