最新記事

カンボジア

フン・セン独裁に手を貸す、日本のカンボジア選挙支援

More Harm Than Good

2018年8月3日(金)18時00分
チャールズ・サンティアゴ(マレーシア国会議員)

野党なき翼賛体制と化すカンボジア議会(首都プノンペン) Pring Samrang-REUTERS

<フン・セン独裁強化に向けた「不正選挙」に8億円の無償資金協力を約束した日本が、見極めるべき真の「国民の意思」>

7月29日、カンボジア人は自由で公正とは程遠い選挙に行くことになる。フン・セン首相と与党カンボジア人民党(CPP)はこの1年、野党の解散を命じ、反体制派を拘束し、独立系メディアを黙らせた。残念なのは、日本などが選挙支援に多額の資金を注ぎ続け、この不正選挙に正統性を与えていることだ。

筆者の国マレーシアでは野党連合が5月の総選挙で、61年間の与党支配を終わらせた。政府は選挙前にいつもの「汚い手」をいくつか行使し、選挙区割りを違憲な形で引き直し、野党候補を恣意的に失格とし、反「偽ニュース」法を導入して批判の抑圧を狙った。だがマレーシア人は82%の高投票率で大方の予想を覆した。

マレーシアの場合は不公平な条件下でも野党が一応戦えたが、カンボジアでは「登板」すら許されていない。フン・センとCPPの任期延長を追認するだけのインチキ選挙だ。

CPPは数十年にわたり断続的に国を支配。近年は最大野党カンボジア救国党(CNRP)の勢いに懸念を強めてきた。CNRPは13年の議会選と昨年の地方選で善戦し、各選挙で4割以上の票を獲得した。

今回の選挙に備えてCPPは昨年11月、政治色が強い最高裁を通して、CNRPの解党に動いた。そのわずか2カ月前には、CNRPのケム・ソカ党首を言い掛かりのような容疑で逮捕。最大野党の不在でカンボジア人は真の選択肢を奪われた。約20の政党が選挙で争うが、その多くがCPPと手を握るか、大した支持の集まらないミニ政党だ。

CNRPへの攻撃はCPPによる弾圧の氷山の一角にすぎない。この1年、市民団体は沈黙を強いられ、独立系メディアはほぼ排除された。英字紙プノンペン・ポストは5月、フン・センに近い実業家に強制的に売却された。

「国民の意思を反映」?

「国家安全保障」を脅かすネットを監視する政府機関がつくられ、メディアは「混乱と信用喪失」を招く選挙報道を一切しないように指導されている。投票の棄権を訴える市民運動に対して、警察は法的措置に出ると脅迫。公務員に対して、投票しなければ給料を減らすと脅した。

そこには高投票率を誇示して、うわべだけの正統性を維持したいというフン・センの必死さが透けて見える。カンボジアが国際社会に、監視団や選挙支援活動を要請したのも同じ思惑だ。

これに対して、欧米各国は選挙活動における深刻な不正を指摘し、すぐに財政支援停止と監視団派遣拒否を決めた。だが日本は2月に8億円の無償資金協力を約束し、投票箱などの選挙用物品を供与することを決定。「国民の意思を反映する」選挙改革の支援をうたった。中国、ミャンマー(ビルマ)、ロシアなどは監視団派遣に合意したが、日本が派遣見送りを決めたのは選挙のわずか4日前だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平交渉が2日目に、ゼレンスキー氏と米特

ビジネス

中国万科、償還延期拒否で18日に再び債権者会合 猶

ワールド

タイ、2月8日に総選挙 選管が発表

ワールド

フィリピン、中国に抗議へ 南シナ海で漁師負傷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中