最新記事

EU

イタリア高速道路橋崩落、的外れなEU批判が覆い隠す財政実態

2018年8月18日(土)13時55分

8月15日、イタリア北部ジェノバで高速道路の高架橋が崩落し多数の死者が出た事故を巡り、老朽化したインフラ整備のためにEUがイタリアにもっと歳出拡大余地を認めるべきという警告だとの見解を同国政府は示した。14日撮影。写真は映像から(2018年 ロイター/Italian Firefighters Press Office/ via REUTERS)

イタリア北部ジェノバで多数の死者を出した高架橋の崩落事故を巡り、老朽化したインフラ整備のためもっと歳出拡大余地を認めるべきという警告だと、同国政府は欧州連合(EU)を批判した。

ただそうした姿勢は、イタリア国債の利回りを一段と押し上げる結果になりかねない。

サルビーニ副首相兼内相は、高速道路の高架橋で14日発生した崩落事故発生から数時間しか経過していない段階で、国内インフラの安全確保に必要な財政資金のすべてを来年度予算に盛り込むことをEUは許容しなければならない、と強調した。

今回の事故では、高さ約50メートルの高架橋が約80メートルにわたって崩落し、橋の上を走行していた自動車など約35台が巻き込まれ、少なくとも39人が犠牲となった。

ポピュリズム(大衆迎合主義)的な2つの政党が連立を組む現在のイタリア政権は6月の発足以来、既に減税や年金支給ルールの緩和、貧困層へのベーシックインカム提供などのために数百億ドル規模の歳出を計画している。さらに前政権が財政目標達成のためにEUと合意した付加価値税(VAT)の税率引き上げの発動も避けようとしている。

そこに今回のインフラ投資必要論が加わった格好だ。

このためイタリアにお金を貸している人々は、財政赤字に対する不安が募る一方となっている。

実際、サルビーニ副首相が高架橋崩落事故を機に、EUの財政赤字制限に疑問を投じると、15日のイタリア国債利回りは急速に上昇した。その後やや下げたものの、利回り水準はなおドイツ国債をかなり上回っている状態だ。

低い優先順位

トル・ベルガータ大学のグスタボ・ピガ教授(経済学)は、EUの財政ルールの有無にかかわらず、そもそもイタリア政府はインフラ整備を最優先の政策として掲げてこなかったと批判した。

ピガ氏は「イタリアはより多くの良質な公共投資を著しく必要としているが、それは近年政治家にとって優先事項ではなかった」と述べ、前政権に至ってはEUから投資に関する裁量を拡大するためにインフラ整備予算の一部を他の分野に回していたようだと指摘した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米国とベネズエラが囚人交換、エルサルバドルが仲介

ワールド

パンデミック条約改正案、米国が正式に拒否 「WHO

ワールド

米でステーブルコイン規制法が成立、トランプ氏が署名

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを名誉毀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 5
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 6
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 7
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中