最新記事

EU崩壊 ソロスの警告

「再来ユーロ危機」投資家ソロスの大胆予測と崩壊EUの処方箋

How To Save Europe

2018年8月1日(水)17時40分
ジョージ・ソロス(投資家、慈善事業家)

Ruben Sprich-REUTERS

<難民や財政危機、加盟国離脱などでEUは崩壊の瀬戸際にある。本誌7/31発売号「EU崩壊 ソロスの警告」に掲載した世界的投資家ジョージ・ソロスの提言を抜粋で紹介する>

EU(欧州連合)は今や崖っぷちに立たされている。この10年間、失敗の可能性があることは全て失敗してきた。戦後の平和と繁栄を支えてきたこの偉大な政治プロジェクトは、いかにしてこんな事態に陥ったのか。

私は個人的に、EUを「開かれた社会」という構想の具現化と見なしていた。それは対等な国々が団結し、共通する利益のために自国の主権の一部を犠牲にする自発的な共同体だった。開かれた社会としてのヨーロッパという考えは、私を刺激し続けている。

だが08年の金融危機以来、EUは道に迷ったようだ。EUが選択した緊縮財政はユーロ危機をもたらし、ユーロ圏を債権国と債務国に分断した。

そして今、多くの若者はEUを、雇用と確かな未来を奪った敵と見なしている。ポピュリストの政治家は大衆の怒りを利用し、反EUを掲げる政党や運動をつくり出した。

そこへ15年以来の難民危機が来た。当初は多くの人が政治的抑圧や内戦を逃れた難民の窮状に同情したが、過大な負担によって自分たちの日常生活が混乱することは望まなかった。自国の政府がこの危機にまともに対処できないことも幻滅につながった。

実際、ヨーロッパ全体が難民危機で混乱している。不道徳な指導者はそれを悪用してきた。ハンガリーでは、オルバン・ビクトル首相が再選を果たしたが、その選挙運動の中で私は、ハンガリーを含む欧州全体にイスラム教徒の難民を流入させようとしている男として名指しされ、目の敵にされた。そしてオルバンは今、「キリスト教徒のヨーロッパ」の擁護者を気取り、EUの基盤をなす価値観に挑戦している。

アメリカもEUの存続を脅かしている。ドナルド・トランプ大統領は15年のイラン核合意から一方的に離脱し、大西洋の両岸を結ぶ同盟関係を事実上破壊した。彼の行動は、既に苦境にあるヨーロッパに追い打ちをかける格好になった。ヨーロッパが存亡の危機にあるということは、もはや言葉のあやではない。冷徹な現実だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

次期FRB議長の条件は即座の利下げ支持=トランプ大

ビジネス

食品価格上昇や円安、インフレ期待への影響を注視=日

ビジネス

グーグル、EUが独禁法調査へ AI学習のコンテンツ

ワールド

トランプ氏支持率41%に上昇、共和党員が生活費対応
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中