最新記事

ドイツ

独メルケル首相、連立危機で見せた求心力 任期末まで続投か

2018年7月5日(木)12時00分

7月3日、ドイツのメルケル首相(写真)は、難民政策で対立する連立相手のキリスト教社会同盟との間で、自身の面目を保つ形で妥協的な合意を成立させた。ベルリンで2日撮影(2018年 ロイター/Hannibal Hanschke)

ドイツのメルケル首相は、難民政策で対立する連立相手のキリスト教社会同盟(CSU)との間で、自身の面目を保つ形で妥協的な合意を成立させた。こうしたプロセスでメルケル氏の立場は弱まったかもしれない。ただ同氏が率いるキリスト教民主同盟(CDU)にとって、「首相の替えはきかない」ことが、いみじくも証明された。

連立政権内の基本的な緊張関係は解消されていない。また特に今回の連立政権樹立における政党間協定には各政党が2年で成果を点検するという事項が盛り込まれたことから、これまで多くの専門家はメルケル氏が任期を全うできないと予想してきた。

それでもメルケル氏に代わってCDUのかじを取れる有力な人材が見当たらず、多くの国民が極右の台頭を恐れている事情もあり、同氏は首相の座を粘り強く守り続けている。うまくいけば、次回の総選挙が予定される2021年まで政権を維持するだろう。

ケルン大学のトーマス・イエーガー教授(政治学)は、難民政策を巡る対立で「メルケル氏と(CSU党首の)ゼーホーファー内相の双方が傷を負った」と指摘しつつも、メルケル氏は首相であり続けるという面で大いに成功し、実際に生き残っていると評価した。

メルケル氏とゼーホーファー氏は2日の会談で、難民審査施設をオーストリアとの国境に設置し、メルケル氏の国境開放政策によって2014年以降160万人強に上っている難民受け入れの負担軽減を図ることで合意した。

この措置が実現するには、もう1つの連立相手である社会民主党(SPD)とオーストリアの同意が必要で、ドイツのメディアからは酷評されている。

くすぶる火種

もっともメルケル氏が抱える大きな悩みの1つである、CSUとの溝は残されたままだ。CSUが難民問題で強硬姿勢を貫く背景には、10月に地元バイエルン州の議会選挙を控え、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の厳しい攻勢にさらされているという事情がある。

とりわけメルケル氏にとって、度々難民・移民政策を巡って意見が衝突してきたゼーホーファー内相と今後も一緒に仕事をしていかなければならない状況は厄介だろう。

一方で連立政権からCSUが離脱すれば、メルケル氏の与党は議会で過半数を維持できなくなる。

連立政権内の対立についてコメルツ銀行のチーフエコノミスト、イエルク・クラマー氏は、相互信頼が大きく損なわれ、今後の立法作業における協力が難しくなるとともに、少なくとも政権の安定性にとって潜在的な脅威を生み出していると分析する。

メルケル氏とゼーホーファー氏は2日の会談後も別々に会見。安心感をのぞかせたゼーホーファー氏と、淡々としたままのメルケル氏の表情も対照的だった。

専門家の間では、この先例えばCSUが反対するユーロ圏改革計画などで再び論争が起きるのではないかと予想されている。

とはいえCSUとの対立が、かえってCDU党員をメルケル氏支持に駆り立てた面がある。あるCDUの幹部議員はロイターに「われわれの首相が小さな連立相手に叩かれ続けるのを許すわけにはいかない」と明言した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中