最新記事

漁業資源

食用に獲った魚の3分の1は捨てられている

2018年7月10日(火)16時30分
リサ・スピアー

世界で消費が増えるにつれて魚資源は減少している slavadubrovin/iStock

<獲った魚の35%は人の口に入ることなく廃棄されている。急増を続ける地球人口を養うとみられる魚に、そんな無駄は許されない>

爆発する地球人口の胃袋を満たすために、魚に依存する国が増えている。同時に漁業による無駄も急増し、世界各地で行われている漁業の持続可能性がますます懸念されている。

世界の魚の3分の1は乱獲されている。また捕えられた魚のうち35%は、人の口に入ることなく廃棄される。また、国連食糧農業機関(FAO)が公表した報告書によると、世界的な気温の上昇で、海洋資源に頼る国が多い熱帯地域に棲む魚が、ほかの海域へと移動してしまうことも予想されている。

FAO水産養殖局のマニュエル・バランジェ局長はロイターに対し、「海洋資源に負担がかかりすぎている。各国の政府には、今より積極的な目標を立てて漁業資源を保護してもらわなくてはならない」と述べた。

FAOの報告書によると、魚の35%近くが廃棄されてしまうのは、冷蔵保存状態の悪さや人的ミスによって魚が腐ってしまうことだ。また、捕まえられた魚の一部は、種類が違ったり、市場に出すには小さすぎたりして海に捨てられる。

ヨーロッパの海洋保護団体オセアナのエグゼクティブディレクター、ラッセ・グスタブソンは英紙ガーディアンに対し、「食料不足の地球で食べ物を無駄にするなど言語道断だ」と言う。「捕まえられた魚の3分の1が無駄になるということは、世界の食料安全保障にとって大きな問題だ」

人口の伸びの倍で伸びる消費量

報告書のデータからは、世界の漁業生産量が昨年過去最高に達したこともわかる。中国で魚の養殖が増えていることが大きく影響している。報告書は、養殖が今後も拡大を続け、2030年には魚の消費量も20%近く増加すると予測している。

「1961年以来、魚の年間消費量は、人口の増加率の倍のペースで伸びてきた。FAOが掲げる『飢餓と栄養不良の撲滅』という目標達成の上で、魚がきわめて重要だということだ」と、FAOのジョゼ・グラチアノ・ダ・シルバ事務局長は述べた。

問題は、漁業資源の減少だ。養殖は一見、天然資源の確保に有効と見えるが、『ファーマゲドン』の著者フィリップ・リンベリーによると、それは逆だという。養殖には、餌として養殖魚の何倍もの天然魚を与えることになるからだ。

違法漁業も含めたこれまでの従来の分析から、漁業資源の減少は、FAOの報告書が示すよりも速く進んでいることがわかる、とガーディアンは報じている。資源管理が必要なのは言うまでもないが、食べもしない魚まで獲ることをまずやめるべきだ。

(翻訳:ガリレオ)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、欧州主導のNATO防衛に2027年の期限設定=

ビジネス

中国の航空大手、日本便キャンセル無料を来年3月まで

ビジネス

金融政策の具体的手法は日銀に、適切な運営期待=城内

ワールド

仏大統領、ウクライナ問題で結束「不可欠」 米への不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中