最新記事

米朝会談の勝者

米朝会談「アメリカは高潔・聡明、敵はクレイジー」外交のツケ

2018年6月19日(火)16時38分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)

マッドマンは政治家だった

もっとも、ある意味でこのような思考になるのも無理はない。アメリカ人は自分たちの国は高潔で、特別で、聡明で、寛大であり、アメリカの外交政策は世界のほぼ全ての人にとって望ましいと信じている。そんなアメリカの政策に同意せず、アメリカの真意を疑う者は、精神的にどこか異常があるに違いない、と。

分別と理性があり、十分な情報や知識があれば、アメリカの目的の崇高さを理解してアメリカのイニシアチブを支持するはずなのだ。9・11同時多発テロの後にジョージ・W・ブッシュ米大統領(当時)は、「アメリカを憎む人がいることに驚いた」と率直に語った。「信じられない、私たちはこんなに善良なのに」

残念ながら、敵対する相手を本質的に非理性的と見なす傾向は、現実的な代償を伴う。まず、相手が本当にクレイジーならアメリカの軍事的優位性に怯えないだろうし、通常の抑止戦略は効果がないかもしれない。

その場合、予防戦争がより魅力的な選択肢になる。イラク戦争がそうであり、先述のとおり対イラン強硬派は軍事行動を支持している。ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)をはじめ北朝鮮に対して軍事攻撃も辞さない人々も、少なくとも金が「マッドマン」から「政治家」に変わるまでは同じような主張をしてきた。

次に、敵対する相手の振る舞いを非理性的な要素のせいにすると、彼らの真意が見えにくくなる。

北朝鮮やイラン、リビアなどが大量破壊兵器に固執することを、アメリカでは常軌を逸する行為や悪意の証拠だと考える人もいる。北朝鮮のように貧しい国が核兵器の開発に莫大な資源をつぎ込むことは狂気でしかなく、金一族の異様さと偏執性と危険性を物語っている、というわけだ。

しかし北朝鮮にも、イランやリビアにも、他国からの攻撃を警戒する正当な理由があり、信頼できる抑止力を求める根拠も彼らなりに持っている。超大国のアメリカが自国の安全のために数千発の核弾頭を保有する必要があると思うのなら、はるかに弱い国々が核保有を有益な保険と考える理由は言うまでもない。

現に、金はまたしても、核弾頭を保有して発射できることが米政府の関心を引く極めて有用な手段になり、ある程度の敬意を払わせることさえできると証明したではないか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

SHEIN、米事業再編を検討 関税免除措置停止で=

ビジネス

中国中古住宅価格、4月は前月比0.7%下落 売り出

ビジネス

米関税で見通し引き下げ、基調物価の2%到達も後ずれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中