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中国CCTVが日本ポーランド戦を大きく報道―ネットも炎上

2018年6月30日(土)21時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

肯定するコメントも

中には日本のやり方を肯定するコメントもある。

西野監督は苦渋の選択をしたのだろうというコメントだ。それは戦うよりも、もっと勇気を必要とする選択で、勝ち残ることを優先するなら、やむを得なかったのではないかと、好意的だ。しかし、肯定はごく少数派。

中国の若者を直接取材してみた

そこで、中国の若者を直接取材してみた。非常に優秀な成績で中国のトップの大学を出た知性派だ。

以下、Qは筆者、Aは取材した中国の若者である。

Q:なぜCCTVがあんなに熱心に日本ポーランド戦を報道し、ネットも燃え上がっているのかしら?

A:それは中国のサッカーチームがあまりに弱いからでしょう。

Q:そんなに弱いんですか?

A:弱いなんてものじゃないです。あれは雑魚(ざこ)です。

Q:雑魚?

A:はい、雑魚です。中国人は誰一人、中国チームに期待などしていません。中国のサッカーチームは存在しないに等しいです。当然、予選も落ちましたし。

Q:習近平はサッカー好きで、サッカーを振興させようとしてるんじゃないんですか?

A:はあ......。

Q:なぜ、そんなに弱いのかしら?

A:体制のせいでしょう。

Q:体制って?

A:指導体制というか、人材育成をするつもりは全くないですからね。

Q:なぜ?受験勉強の邪魔になるから?

A:中国ではサッカーは出世の道につながらないし、かと言って、勉強をやめてサッカーに専念すればいいほど、サッカーの練習は生易しいものではないし、親が、子供にそういうリスクを負わせたくないというのがあります。チームワークに向かないという国民性も否定できません。

Q:なるほど!おもしろい視点ですねぇ!

A:今回は日本がコロンビアやセネガルで大奮闘したから、中国人としては羨ましいという気持ちが強かったかもしれません。日本をアジア代表として応援している中国のサッカーファンもいましたし。

Q:そうでしたか。だからあんなに逆に失望して、ネットが燃え上がったりしたのかもしれませんね。もっとも、CCTVは喜んだんじゃないかな。

A:はい。CCTVはブーイングが起きたりしたことを喜んだと思います。ネットのサッカーファンは、たしかに日本に期待して憧れた分だけ失望したというのはあると思います。日本はここ数年ヨーロッパのリーグにサッカー選手を参加させたり、凄い勢いで選手を育てていますから、中国のサッカーファンは羨ましいと思っています。

Q:そうなんですか、知りませんでした。ところで、あなた自身は、日本ポーランド戦をどう見ていますか?

A:私は西野監督の選択は正しかったと思います。彼には、マイアミの奇跡を起こしながらもグループ戦敗退をしたという苦い経験があるので、あの決断をするしかなかったのではないでしょうか。彼はベスト16以上のことを考えているから、選手の体力を温存するためにポーランドとの試合では二軍を出しています。だからポーランドに先制点を奪われてしまった。あの状況下では、もうあの選択しかなかったと思います。

おおむね以上だ。

ネットのコメントだけ見ていると、てっきり「反日感情」かと思ったら、案外、日本への羨望だったことが分かった。

取材してみないと、分からないものだ。

ただ、そのことから考えても、CCTVの報道ぶりは上質だとは言えない。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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