最新記事

セクハラ

インドで相次ぐ性的暴行事件 誰も語らない「少年被害」

2018年5月21日(月)18時20分

5月8日、少年がクリケットを楽しんでいた場所近くの部屋に誘い込むと、男はドアと窓を閉め、彼をレイプした──。インドのムンバイに住む14歳の少年が昨年7月、病院のベッドで母親に語った話だ。写真は2016年、ガンジー川の川岸を歩く少年(2018年 ロイター/Jitendra Prakash)

クリケットで遊んでいた場所近くの部屋に少年を誘い込むと、男が部屋のドアと窓を閉め、彼をレイプした──。インドのムンバイに住む14歳の少年が昨年7月、病院のベッドで母親に語った話だ。

少年はその後まもなく亡くなった。両親と警察によれば、事件後に彼が飲んだ殺鼠剤が原因だったという。

警察は、事件の捜査をほぼ諦めている。「新たな手掛りが得られれば、この事件に再び光を当てることもできるが、今のところは迷宮入りだ」と、捜査を担当する警部補はロイターに語った。

モディ首相率いるインド政府は先月、12歳以下の女児に対する性的暴行に死刑を科す制度を導入し、被害者が16歳以下の場合に下する最低刑を厳罰化した。与党優勢の2つの州で8歳の少女と若い女性がレイプされた事件を受けて、大きな抗議行動が起きたためだ。

今回緊急導入された政令は、少年に対する性犯罪には触れていない。政府調査によれば、未成年女子よりも未成年男子の方が被害に遭遇する可能性が高いことが明らかになっている。

この政令は6カ月間で失効するため、政府は法案を提出し、これを法制化する必要がある。政府がこれを法制化する時点で、ジェンダーに中立的な内容へと拡大する予定だと、政府高官は匿名で語った。「少女に適用されることはすべて少年にも適用される」

政府首席報道官にコメントを求めたが回答は得られなかった。

少年に対する性的暴行罪の最低刑は禁固10年であり、16歳以下の少女を暴行した場合の禁固20年に比べて軽い。

「なぜこのような差別があるのか」。レイプされた少年の父親は自宅でロイターの取材に応じ、そう問いかけた。一家が暮らすのは、ムンバイ国際空港近くにある、貧しいインド北部の州などから移ってきた労働者家庭が多く暮らす賑やかな一角にある小さな平屋だ。

母親は嗚咽を漏らしながら、病院で死に瀕した息子に接したときの恐怖を語った。「どうか公正な裁きを」と取材の最後に訴えた。

ロイターが確認した少年の診断書によれば、同性愛者による性的暴行を受けたと記されていた。インドの法律に基づき、レイプの犠牲者とその家族の身元は明かされていない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比3.4%上昇に鈍化 利下げ期

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中