最新記事

中国

イスラム教徒に豚とアルコールを強要する中国・ウイグル「絶望」収容所

2018年5月18日(金)20時02分
デービッド・ブレナン

新疆ウイグル自治区カシュガルのモスクの前でパトロールする中国の警官(2017年3月) Thomas Peter-REUTERS

<中国政府がイスラム教徒の弾圧をエスカレートさせるなか、強制収容所の元収容者がその悲惨な実態を語った>

中国でイスラム教徒の「思想改造」のための強制収容所に入れられた元収容者らが、当局にイスラム教が禁じるアルコールや豚肉の摂取を強要された、と語った。少数民族を抑えこんで服従させる、中国政府の取り締まりの一環だ。

中国に住む推定100万人ものイスラム教徒がこうした収容所に収監されてきた。最も多いのは、中国政府による漢化政策に断固として抵抗してきた中国西部・新疆ウイグル自治区の出身者だ。元収容者らが米紙ワシントン・ポストの取材に応じ、思想改造のためなら手段を選ばぬ中国政府の手口を語った。

収容者は、中国共産党と習近平国家主席の信奉者にするための洗脳、屈辱、拷問を受けた。弁護士が付かず、正式な逮捕容疑もなく、救いもない。

元収容者のカイラト・サマルカンドは、ワシントン・ポストに対し、カザフスタンから帰国後に拘束され、3カ月にわたって収監された、と語った。収監中、中国政府のプロパガンダを何時間も勉強させられ、習を称賛するよう強要されたという。「規則に違反したり、義務の履行を拒否したり、他者と衝突したり、勉強会に遅刻したりした収容者は、最長12時間、手錠と足錠をかけられた」、と彼は当時の様子を語った。

文革以来の苛烈さ

別の元収容者も、サマルカンドの主張に同調した。オミル・ベカリは、カザフスタンにある自宅から中国の家族を訪ねる途中で、中国当局に逮捕された。収監中、当局に過激派と疑われた者はイスラムの教義に反するアルコールの摂取を強制されていたという。他の収容者も罰則には無理やり豚肉を食べさせられた、と2人は証言した。豚も禁じられた動物だ。

2人とも解放され、現在はカザフスタンで暮らしている。だがいまだに、収容所で起きたことの悪夢に苛まれているという。「毎晩、当時のことを思い出す」と、ベカリはAP通信に語った。「朝まで眠れない。四六時中、記憶が頭から離れない」。釈放後、ベカリの両親と姉は収容所に送られた。

米シンクタンク、ジェームズタウン基金会が5月15日に公表した報告書のなかで、ドイツ南部コーンタールの「ヨーロピアン・スクール・オブ・カルチャー・アンド・セオロジー」のアドリアン・ゼンス教授は、中国政府によるイスラム教徒弾圧についてこう指摘した。「(1966~1977年の)文化大革命以降、中国政府が主導したなかでおそらく最も苛烈な社会改造だ」

中国政府は収容所の存在自体を否定するが、ゼンスは新疆に住む1100万人のイスラム教徒の相当数が当局に拘束されたとみており、その規模は数十万人から100万人超に上ると推計している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期速報値0.3%減 関税で3年ぶ

ワールド

トランプ氏、「好きなだけ」政権にとどまるよう要請 

ワールド

中国との公正な貿易、知的財産権の管理も含まれる=ト

ビジネス

独CPI、4月速報は+2.2% 予想上回るも伸びは
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・ロマエとは「別の役割」が...専門家が驚きの発見
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 7
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 8
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 9
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中