最新記事

海外旅行

テロの時代に安全な海外旅行を楽しむために

2018年5月15日(火)16時00分
ローリー・ペニントングレイ(フロリダ大学観光危機管理イニシアチブ・ディレクター)

安全を確保するために旅行者はどんな準備をするべきなのか Illustration by James Boast/GETTY IMAGES

<今や有事の対策は観光地に不可欠、旅行者の側もSNSで正確な情報入手を心掛けよう>

観光地でテロに遭遇する危険性が、これまでになく高まっている。有名な観光地にはいろいろな国の人が訪れるから、テロを起こせば、より多くのメディアに取り上げられ、より政治的な問題として扱われて、総合的なインパクトが高まる。いわゆる「大国」からの観光客が標的になりやすいのも、こうした理由からだ。

では、旅の安全を確保するために、観光地と旅行者はどんな準備をするべきなのか。フロリダ大学観光危機管理イニシアチブでは、観光地の自治体が取るべき対策の研究を進めている。なにしろ一度でもテロ事件が起きれば、その町の観光業界が受ける打撃は大きい。事件そのものの物理的被害があるし、イメージの悪化という、より長期的なダメージもある。

興味深いことに、多くの人は当初行こうとしていた国や町でテロの危険が高まったと知ると、旅行そのものを取りやめるのではなく、行き先を変える。つまりイメージが悪化した町は、イメージのいい町に客を奪われるわけだ。それだけに、観光地は旅行者の受け入れ態勢を整えるだけでなく、日頃からポジティブな情報を発信し続けることが重要になる。

とりわけ今は、ソーシャルメディアの時代だ。人々は飛行機やホテルの予約をする前に、政府の危険情報やクチコミの評判など、さまざまな情報を集めたがる。こうしたニーズに応えられない観光地は、旅行者の取り合いという競争の負け組になってしまう。

危機管理そのものの領域では、しっかりとした緊急対応計画を策定する自治体が増えている。こうした計画が見事に実行された例として、2013年のボストン・マラソン爆弾テロ事件がある。

マラソンのゴール付近で大きな爆発が起きると、ボストン市警は直ちに緊急計画を発動。レースを中止して、ランナーを所定の場所に避難させた。さらに4日後、逃走中の容疑者の目撃情報が入ると、マサチューセッツ州知事は屋内待避命令を発令。これは当局が該当地域の住民に直接連絡を入れて周知徹底を図る「リバース911」という手法が取られた。このため町からは文字どおり人影が消えた。

一方、ボストン市警はソーシャルメディアを駆使して最新情報をどんどん流した。間違った噂を否定して、正しい情報を流すことにも力を入れた。市警のツイッターとフェイスブックに寄せられた質問は、ボストン市観光局が回答作業を引き受けた。このように情報を一元化して、正確で有用な情報を随時発信することが、テロなどの危機管理では決定的に重要になる。

残念ながらテロが起きてしまった町や、テロの危険があるというイメージが付いてしまった町が、独創的な情報戦略によってイメージ回復に成功することもある。これを見事に実行したのが、ベルギーの首都ブリュッセルだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ECB総裁の後任、理事会メンバーなら資格ある=独連

ビジネス

欧州委、グーグルの調査開始 検索サービスで不公正な

ワールド

米、中南米からの一部輸入品で関税撤廃 コーヒーなど

ワールド

米上院民主党、対中輸出規制を一時停止したトランプ政
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中