最新記事

シリア内戦

トランプが命じたシリア「精密攻撃」の危うさ

2018年4月19日(木)15時00分
トム・オコナー

中東「泥沼介入」の歴史

ニッキー・ヘイリー米国連大使は3月半ば、アサド政権に対する一方的な軍事行動を示唆。これに対してロシア軍のバレリー・ゲラシモフ参謀総長は次のように警告した。「わが軍兵士の生命への脅威が発生した場合、ロシア軍は報復措置としてミサイルとその運搬手段の両方を攻撃対象とする」

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はシリアでの紛争拡大に反対するとして、もしトランプ政権が新たな軍事行動に出れば、アメリカは再び長期にわたる中東での戦争に引きずり込まれる恐れがあると警告した。

「シリアでの無謀な行動は、リビアやイラクのときと同様の禁じ手だ。そのような危険な賭けに出る者がいないことを願う。たとえ小さな事件でも、再びヨーロッパへの難民流入が激増するきっかけになる」

紛争拡大を「歓迎するのは、おそらく外国勢力だけだろう」と、ラブロフは付け加えた。「彼らはひそかに自分たちの地政学プロジェクトを前進させるため、(中東という)地域全体を破壊する試みを続けている」

01年の9.11テロ以降、アメリカはアフガニスタン戦争を皮切りに、いくつかの紛争に直接関わってきた。しかし、必ずしも思いどおりの結果にはなっていない。

アフガニスタンでは、9.11テロの首謀者であるウサマ・ビンラディンをかくまっているとの理由でイスラム原理主義勢力のタリバン政権を攻撃。直ちに同政権を崩壊させたが、その後も反政府武装勢力の活動に悩まされ続けている。

03年にはイラク戦争に踏み切った。フセイン政権が大量破壊兵器を隠し持っているというのが開戦の「大義」だったが、この疑惑はぬれ衣だったことが後に判明した。フセイン政権の崩壊後、イスラム教シーア派主導の政権が樹立されたが、それに反発するスンニ派武装勢力の活動が活発化した。そうした勢力の一部が合流して、スンニ派武装勢力「イラク・イスラム国」が誕生した。

11年に中東で「アラブの春」と呼ばれた民主化運動が拡大すると、アメリカやその他のNATO諸国はリビアの反政府勢力を支援し、カダフィ政権を打倒させた。しかしその後、リビアは内戦状態に陥った。バラク・オバマ前米大統領は後に、このときに適切な対応ができなかったことを、在任中に犯した最大の失敗だと振り返っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中