最新記事

朝鮮半島情勢

習近平訪朝はなぜ米朝首脳会談の後なのか?──中国政府関係者を独自取材

2018年4月19日(木)13時20分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

しかしトランプ大統領は早急な核廃棄を要求している。そもそも米朝首脳会談自体、核廃棄が前提だとさえ言っていたし、最近では譲歩して、会談後6ヵ月から1年以内の完全廃棄を要求するだろうとの情報もある。これでは米朝首脳会談が決裂しないという保証はない。

だとすれば、習近平の訪朝は、やはり米朝首脳会談後になるだろうということが考えられる。

ポンペオ米CIA長官の訪朝

17日、ワシントン・ポストは、トランプ政権の国務長官に指名されているポンペオCIA(中央情報局)長官が3月30日から4月1日にかけて秘密裏に訪朝し、金正恩と面会していたと報じた。18日にはトランプ大統領(以下、敬称略)自身がツイッターで同氏を大統領特使として北朝鮮に派遣したことを明らかにした。米朝首脳会談の準備の一環とのこと。

そのポンペオは金正恩と密談した後の4月12日、米議会上院外交委員会の公聴会で「金正恩が核兵器でアメリカを威嚇できないようにしなければならない」としながらも「北朝鮮の体制転換は求めていない」と答えた。

トランプは18日のツイッターの中で、ポンペオと金正恩との会談は非常にうまくいっており順調だと書いているので、金正恩にとっての最大の関心事である現体制維持の保証はなされたものと考えていいのかもしれない。

しかしその一方でトランプは、安倍首相との会談の中で「場合によっては、米朝首脳会談が必ずしも開催されるとは限らない」という趣旨のことさえ言っている。まだまだ不確定要素が残っているようだ。

となればなおさら、習近平国家主席の訪朝は、米朝首脳会談のゆくえと結果を見てからということになろうか。

なお、金正恩があそこまで熱烈に宋濤訪朝団を歓迎して見せたのは、その不確定要素を北朝鮮に有利に持っていくためであることは明らかなものの、少なくともトランプは「休戦状態の南北朝鮮が終戦を実現することには賛同だ」とも言っているようなので、米朝首脳会談への基本路線は固まりつつあると見ていいだろう。またポンペオ氏は、会談の最大の目的は、「対米の核脅威への対処だ」と述べているので、米朝の間ではアメリカ本土を射程に収めるICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発凍結のみで合意する可能性も否定できない。中日韓を射程に入れる短距離・中距離弾道ミサイルに対する扱いが曖昧にされた場合、中国と韓国は今や「熱い友情」により攻撃の対象となることはもうないが、日本だけが取り残される可能性は否めない。最後まで圧力と制裁強化を主張する日本だけが割を食わなければいいが......。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中