最新記事

人体

冷凍保存で人間は不死身になれる?

2018年3月27日(火)18時00分
ゾルタン・イストゥバン

アルコー寿命延長財団の施設には患者たちを冷凍保存する装置が並ぶ Jeff Topping-REUTERS

<医療の進歩を期待して「冷たい眠り」に就く患者たち――彼らの権利を守るための法整備が必要だ>

人体冷凍保存(クライオニクス)は、液体窒素を使って超低温で人体を冷凍する技術だ。現代の医療では治療不可能な病気にかかった人を、いずれ医療が進歩して蘇生する技術が完成した時点で解凍・治療しようというものだ。

最近は、遺伝子編集や人工細胞、ナノテクノロジーなどさまざまな分野で画期的な進歩が見られる。35~50年たてば、冷凍されている人々を蘇生させることができるのではないかと人体冷凍保存の専門家は考えている。

記者はかつて、米アリゾナ州にある人体冷凍保存施設のアルコー寿命延長財団を訪れた。施設内には、患者たちを冷凍保存する高さ2メートル余りのスチール製の装置が並んでいた。

「患者たち」と書いたのは、彼らは死んではいないと研究者たちが考えているからだ。「私たちは『緊急医学』を実践している」と、マックス・モアCEOはいう。「患者たちは死んではいない。もう死など存在しない。彼らは生き返る時を待っている」

16年には、癌で死亡したイギリスの14歳の少女が冷凍されたことが世界中で大きく報道され、人体冷凍保存を規制する法整備が必要だという声が高まった。少女はアメリカで冷凍保存されているが、イギリスで、いや、おそらく世界で初めて、人体冷凍保存に関する裁判事例となったことでも知られる。

少女と母親は冷凍保存を希望していたが、父親は望んでいなかった。ピーター・ジャクソン判事は死に瀕していた少女に面会し、冷凍保存によって長く生きる可能性を探りたいという希望を彼女自身から聞いた。少女は判事への手紙にこうつづった。

「私はまだ14歳です。死にたくありません。でも、死ぬのだと分かっています。冷凍保存してもらえば、治療を受け、目覚めるチャンスがあると思います。何百年も後かもしれませんが。地面の下に埋められるのは嫌です。私は生きたい。もっと長く生きたい。将来、私の癌を治療する方法が見つかるかもしれません。そのチャンスが欲しい。それが私の願いです」

少女が死ぬ前に、ジャクソンは冷凍保存を許可する判決を出した。少女の弁護士ゾーイ・フリートウッドはBBCラジオの番組で、彼女のような「非凡な人物」の裁判に関われたことは「とても光栄」だったと語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中