最新記事

雇用

就職氷河期にキャリアを奪われた「ロスジェネ」の悲劇

2018年3月22日(木)16時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

大卒の就職率はバブル期に匹敵するレベルまで上昇 TAGSTOCK1-iStock.

<空前の売り手市場が続く中で大卒者の就職率はバブル期レベルにまで回復。一方でキャリア形成期と就職氷河期が重なった「ロスジェネ」世代の苦境は深刻>

3月の下旬に入り、日本は卒業シーズンを迎えている。空前の売り手市場が続く中で、学生の就職率は年々上がっている。2017年春の大学卒業者の就職率は97.6%と報告されている(文科省『大学・短期大学・高等専門学校及び専修学校卒業者予定者の就職内定状況等調査』2016年度)。

しかしこれは就職希望者をベースとした比率で、当初は就職を希望していたが途中で脱落した学生は分母に含まれていない。関係者の間では常識だが、分母をどうするかで数値は大きく変わる。「就職率99%!」などという大学の謳い文句は信用しないほうがいい。

文科省『学校基本調査』の進路統計をベースに、現実に近い大卒者の就職率を出してみる。分子には、就職者と臨床研修医を入れる。医学部の場合、キャリアが臨床研修医から始まることが多いので、この数も加える必要がある。分母には、就職の意思のない大学院進学者と専門学校等入学者を、卒業生全体から引いた数を用いる。

この方式で2017年春の大学卒業者の就職率を計算すると88.3%となる。上記の文科省報告の数値よりだいぶ低いが、こちらのほうが現実に近いだろう。<図1>は、この値が90年代からどう推移してきたかをみたものだ。ジェンダーの差も見るために男女別にカーブを描いた。

miata180322-chart01.jpg

大卒者の就職率はバブル期で高かったが、バブル崩壊後の不況の影響で下がり、世紀の変わり目にボトムになる。その後上昇し、2008年のリーマンショックの影響で下がり、2010年頃を境に再び上昇に転じる。2017年春の就職率は男子が87.0%、女子が89.7%で、女子はバブル期を超えている。21世紀に入って大卒者の就職率は男子より女子の方が高くなっている。1999年に男女共同参画社会基本法が制定されたことの効果かもしれない。

就職率の変化は社会の景気動向とも関連している。不況期には公務員人気が高まるというが、小学校教員採用試験の競争率(点線)と就職率は、大局的には逆の動きを示している。後者がボトムだった2000年に前者はピークに達している。今は好況で公務員試験の競争率は低下し、採用者の質の確保に関係者は頭を悩ませている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中